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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第10話-27


 重い空気は、大和にもあった。
「………」
 英気がない、というわけではない。初戦のマウンドに立っていた時と同じように、大和の身体からは、確かな気力を感じる。しかし、“陰”のようなものがいまだ彼の中に差していることも、桜子は気がついていた。
 練習のときでも、普段のときでも、見た目にはいつもの大和だった。そして、桜子が見えるようになった“陰”について、周囲は何も気づいていないらしく、時折、自分の気のせいなのかなと、疑うときもあった。
 しかし、思い出したように大和が見せる“陰”は、桜子にはっきりと見えていた。今は、その“陰”について、桜子は疑いを抱いていない。
「大和」
 だが、桜子は敢えて、その点には触れないことにした。
「前の試合の、“完全試合(パーフェクト)”は、忘れていかないとダメだからね」
 大和が言っていた、“いきなりすごいことをしたから、不安になった”という言葉を信じているかのように、桜子は振舞った。
「いこう、大和」
「ああ、いこう」
 打ち合わせは、それで終わった。
 大和の心境に、一体何が起こったのか。桜子は、それを詮索するつもりはない。ただ一心に、自分が構えるミットめがけて、大和の全てを投げ込んできて欲しいと、それだけを望み願っていた。
(来て、大和)
 だから、サインは出さなかった。一瞬、大和の動きが止まったように見えたが、桜子の意図を感じ取ったのか、微笑をその口元に宿してから、彼は大きく振りかぶった。
「ストライク!」
 大和が投じた初球。それは、右打席に立つ相手の1番打者・迫田の、内角高目に鋭く貫き穿たれた、“スパイラル・ストライク”であった。
(うん、来てる)
 手応えは、初戦のものと同じだった。何かを吹っ切ろうと、思い切って投げ込んできたのだろう。桜子は、そう信じることにした。
 二球目。やはり、桜子はサインを出さない。“ノーサイン投法”による大和とのコンビネーションで、このイニングは乗り切ろうと覚悟を決めている。
「!」
「ストライク!!」
 二球目もまた、“スパイラル・ストライク”であった。よほどのことがない限りは、連投をしないウィニングショットを、大和は投じてきたのだ。
(やっぱり、大和は…)
 何かを思いつめているのは、間違いない。皮肉なことに、手のひらに残る感触が良ければ良いほど、それを如実に、桜子は感じ取ることが出来た。
「ストライク!!! バッターアウト!」
 三球目も、“スパイラル・ストライク”だった。さすがに連続して投じられた同じコースの球に、1番打者・迫田はスイングをしかけてきたが、バットはボールの下を空振りしたため、あえなく三振に倒れた。
 続けて、2番の横山が打席に入る。
「ストライク!!! バッターアアウト!!」
 2番打者らしく、小器用そうな雰囲気を持っていたが、それを歯牙にかけることもなく、大和はこの打者を、“スパイラル・ストライク”で三球三振に切り捨てた。
(………)
 仁仙大の3番打者は、注目選手として名前の挙げられていた、六文銭孝彦である。非常に体格の良い、膂力のありそうな厳しい風貌をしている選手だ。
 桜子も大和も、一度だけ面識がある。2年前、雄太たちが始めて臨んだ入れ替え戦の試合を観戦しに行った時、目の前で具合を悪くした安原誠治を介抱したことがあったが、そのときに、彼を追いかけてきたのが、確かこの、六文銭だった。名前が特徴的だから、よく覚えていた。
 その六文銭が、右打席に入る。悠然とした打席内の構えには、強打者としての貫禄があり、さすがは前年度の“隼リーグ”で、最多本塁打賞を獲得しただけのことはあった。

 ギンッ!

「おぉっ!」
 その六文銭に対しても、大和は“スパイラル・ストライク”を投じてきた。
 六文銭も予測していたのだろう。力感溢れる強烈なスイングで、内角高めに投じられた“スパイラル・ストライク”を捩じ伏せようとした彼は、しかし、バットには当てたものの、勢いのない高いフライとなった。
 三塁手の吉川がそれをグラブにしっかりと掴んで、アウトに仕留めた。
「アウト!!! チェンジ!」
 両チームとも、好機らしい好機を作ることなく、初回の攻防は終了した。


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