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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第9話-33


「また、やられたな。たいしたものだよ」
 試合後の歓談の中で、松永がそう言って大和に声をかけてきた。彼は本当に、人が変わったかのような、スポーツマンシップに溢れる立ち居振る舞いをしている。
「外角高めに伸びてきたあの球は、本当にすごいもんだった。あれはもう、“捨て球”にしかできなかったよ」
 大和の“スパイラル・ストライク”は、左打者であるところの松永には外角高めのボールとなる。全力以上の全力といっていたように、松永にだけは“スパイラル・ストライク”をメインとした配球で対応していた。
 許した3安打は、きわどいボール球を、強引に振り抜かれた結果である。それほどまでに、“スパイラル・ストライク”との勝負を、松永は避けたということだ。
「変化球は、投げないのか?」
 いくら“スパイラル・ストライク”が優れたウィニングショットでも、ストレートだけではいつか限界が来る。実際、松永がボール球に手を出して、それでも安打に出来たのは、ストレートにタイミングをアジャストできていたからだ。一球でも変化球で緩急をつけられていれば、ヒットを打てなかった可能性が高いと、松永自身は思っている。
「昔は投げていたんですが、今は…」
 肘の故障で遠ざかっていたこともあり、また、リリースポイントの変わった今、これまで投げていた変化球については、一度リセットして考えている大和である。
「………」
 不意に松永が、軟式ボールを取り出す。
「お前さんの腕の振りは、間違いなく速球派のものだから、カットを覚えるだけでも幅は広がる」
 と、自分の投げたカットボールの握りを見せた。
「俺のは、親指の位置が少し違うんだ。普通のカットに比べると、回転が抑えられて、ブレーキのかかったボールになる」
「ああ、だから…」
 あの、沈むような球筋になったのであろう。
「まあ、あくまで参考にしてくれればいいんだが、お前さんの腕の振りなら、俺以上のカットが投げられるんじゃないかな?」
 随分と見込まれたものである。
「あの、松永さん……」
「まあ、言いたいことはわかる」
 どうして自分がドリーマーズに所属していて、カットの握りを見せるぐらい親身にしてくれるのか。
「お前さんに食らった1発が、身に沁みたってことさ」
「………」
 松永に変わって要約するならば、こうだ。
 二年前の、例の草野球大会で、無様な姿を晒した松永は、当然ながらチームの中でも求心力を失い、シャークスは半ば自然消滅する形で瓦解した。その後、賭け野球にも興味を失い、野球から離れてしまっていたのだが、松永の真なる実力を惜しんだ鈴木に熱心な勧誘を受け、心を動かされて、改めてドリーマーズの一員となった。
 しばらくは浮いた存在だったのも仕方ないところだったが、賭け野球から離れて親しむ野球に、いつの間にか松永は夢中になっている自分を見つけていた。
『こんなに面白いスポーツだったか?』
 純粋な意味での野球に取り組むようになって、初めて松永は、これまでの自分の行動の愚かさを悟ったのである。
「単純な話だよ」
 そう言って、自嘲するような笑みを浮かべる松永であった。
「ところで、お前さん。プロには興味あるのか?」
「え?」
 不意に、思いがけない方向へ話が転換した。
「いや、お前さんの球を見れば、多分、スカウトは目をつけるんじゃないかって思ってな」
「………」
 本当に、思いもしない話だった。
 松永は間違いなく、元・プロ野球の選手である。そして、プロのスカウトたちも、前歴を見ればそのほとんどが、選手として一時期を過ごしてきたことのある“つわもの”たちである。
 いわば松永も、“プロの目線”を持っていることになる。その松永が、大和の投球に対して“プロでも目をつける”と言っているのだ。
「僕、は…」
 投手としての復活に心を砕いてきた大和にとっては、まったく想像だにしなかったことであった。
「まあ、今は自分のチームで精一杯かもしれないからな」
 大和の沈黙を受けて、松永が話を引っ込めた。
「今日は楽しかった。ありがとうな」
「あ、はい。僕こそ、カットの握り見せてもらって、ありがとうございました」
 立ち去る松永の背中に、大和は帽子を取って深々と頭を下げていた。
 何か、大事なものを受け取った気がする…。それが、かつては敵愾心を燃やした相手への、最敬礼という形になって表れていた。


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