『SWING UP!!』第９話-25
週末になり、結花と航にとって、“デビュー戦”とも言うべき練習試合の日がやってきた。
監督のエレナによれば、相手はシークレットだと言っていたが、今回もやはり見当がつかない。
桜子によれば、龍介の様子を見れば、以前のようにドラフターズが相手とは考えられないそうだ。そもそも、身重になったばかりで体調の落ち着かない由梨を残して、龍介がひとり自分の趣味を優先することはあり得ないことだった。
「いよう！ 待たせたな、諸君！」
対戦相手に思いをめぐらせつつ、グラウンドで準備を始めていた双葉大の面々に、陽気な声をかけてきたのは、近隣の草野球を束ねる団体・“草球会”の代表を務めている鈴木寛だった。
彼に率いられるように、白地に黒のピンストライプが特徴的なユニフォーム姿の面々が、次々とグラウンドに姿を現す。その胸には“ＤＲＥＡＭＥＲＳ”のアルファベットが、記されていた。
「相手は、ドリーマーズか！」
草球会の中心となるチームなだけに、界隈では最強と名高い。全国レベルの草野球チームが集まるような大会にも出場して、上位進出の常連になっている。
「龍の大将から頼まれてな。今回は俺たちがひと肌脱いだってわけだ」
鈴木の話を要約すると、こうである。
実は、エレナは、今回もドラフターズに試合の相手を頼んでいた。だが、龍介の細君である由梨の懐妊が分かり、また、助っ人として期待していた晶も今は妊娠していたため、満足のいく相手ができそうにないと感じた龍介が、鈴木にその代役を依頼したのだ。
そして、男気のある鈴木は、彼も認める好漢・龍介の頼みを、一も二もなく引き受けて、今日の練習試合と相成ったわけである。
「まあ俺も、監督さんとは因縁浅からぬ関係だからな」
「そうでございましたね」
１シーズンだけだが、鈴木とエレナは“隼リーグ”で対峙したことがある。しかも、それぞれのチームで、同じ５番打者として、だ。
「というわけで今日は、よろしく頼むぜ」
「こちらこそでございます」
鈴木とエレナが、握手を交わした。笑顔でありながら、既に戦いは始まってると言わんばかりの火花が、視線の中で交錯している。
ドラフターズとは違い、選手としてライバル関係にあった相手が率いるチームなだけに、エレナはいつになく負けん気が顔を出しているようだ。
「starting orderは、昨日、お伝えしたとおりです」
エレナが言う、結花と航を加えた新陣容のスタメンは、以下のようになっていた。
１番：岡 崎（遊撃手）④
２番：栄 村（右翼手）④
３番：屋久杉（一塁手）④
４番：蓬 莱（捕 手）②
５番：草 薙（投 手）②
６番：吉 川（三塁手）③
７番： 浦 （左翼手）③
８番：片 瀬（二塁手）①
９番：木 戸（中堅手）①
ベンチ要員
若 狭（一塁コーチ担当）④
本 間（三塁コーチ担当）④
「………」
「………」
既に聞いていたこととは言え、結花と航は、いきなり自分たちがスタメンに名を連ねていることに戸惑いを感じている。昨年の主力メンバーの一人であり、最終回生でもあるはずの若狭が、ベンチにいるということも…。