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風船、風鈴、蝉時雨
【悲恋 恋愛小説】

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風船、風鈴、蝉時雨-3

そんな事よりも、残り短い人生をこの病院という箱の中でどう生きるかの方が重要だ。
「なぁ鈴音、どうすればいいと思う?」
彼女は毎日訪れてくれた。
だが、もう退院出来ない、という事は言えないでいた。
余計な心配かけたくなかったから。
早く退院できるといいね、と微笑む彼女を見る度、俺の心臓は潰れそうになる。

「どうするって…毎日お薬飲んで、ちょっとでも外出て日光浴びて、あたしと色々話してりゃそのうち元気になるよ」
「…薬ヤダ」
今までのものと少し種類が変わり、副作用が強くなったのだ。
「吐きそーになんだよ…」
イラつく。
「…もうやだ…っ」
窓から見える、中庭でサッカーして遊んでる子供達。
向こうの通りを歩いているブレザー姿の高校生…。
「なんで…俺だけこんなんなんだよ…っ」
苛々する。
腕に付けられていた管をテープごと剥がし、栄養パックをスタンドから床へと叩き落とす。
針の刺さっていた血管の中の血がじんわりと滲み出た。
「孝宏!!」
途端、胸が締め付けられるように苦しくなり、呼吸困難に陥る。


もう、どうでもいい。
どうにでもなれば良い。
止まりたいなら止まれば?俺の心臓。
もう、知らない…。


「ねぇセンセ、一日だけでいーからサ、外出許可してくんない?」
俺はまだ生きていた。
敢えて表すなら、真っ二つに切断されたはずの胴体が腹の皮一枚で繋がってる状態、といったトコロか。
「それはまた無理なお願いを…どうして?」
「どうしてって…俺もう、あと一週間生きれる自信ないし、どうせ死ぬなら外で思い出作ろうかな〜と思ってさ。ずっと此処に閉じ籠ってんのって超辛いんだよ?」
死ぬんなら…病院内じゃなく外で、が良い。
そんな事は許されないけど。(どうせ運ばれるし。)
「半日…なら許可しても良いよ」
予想外の返答。
「えっ、まじ?半日で十分十分!ありがとねセンセ!!」
俺は早速立ち上がり、先生が言っている忠告も聞かずに診察室を出た。

自室に戻る途中、鈴音に出会しいろいろと突っ込まれた。
「ちょっと孝宏!もう歩いて平気なの!?」
「全然平気」
「そっか。良かった…」
「鈴音、今日の夜時間取れる?」
「うん」
「したっけさ、××にあるあの廃屋の屋上、行かない?」
「うん、良いよ?」
「絶景だから」
「ぜっけー?何の?」
「秘密。お楽しみにしててクダサイ」
「ハイせんちょ!」
船長?


「母さん、金貸してくんない?」
自室に戻り、母が剥いてくれたリンゴを頬張りながら訊いた。
「いくら?」
「えっと…バス往復だから…400円?」
「やっすい借金だわね。ほらよ」
「ありがとよ。悪かったなやっすい借金で。
あぁ、あともう一つ頼んで良い?………」


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