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風船、風鈴、蝉時雨
【悲恋 恋愛小説】

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風船、風鈴、蝉時雨-2

鈴音と別れた後、俺はやっぱり泣きたくなる。
俺は弱い。心も体も…。
鈴音とこの先何年も一緒にいられないのが、悔しくて、辛くて、悲しくて仕方ない。



夜眠るのが怖い。
もう二度と目を覚まさない気がするから。
静かに誰にも気づかれずに死んでいくのがどれだけ怖い事か。
眠る、という行為には、それを思い知らされる。


「鈴音……」


暫くは調子の良い日の連続だった。
が、それもあまり長くは続かない。


不覚だった。
乗っていた電車が終点間際で満員になるなんて。
どこを向いても人。
立っていた俺は、遂に倒れそうになる。
苦しいなんてモンじゃない。
上下前後左右…全ての感覚が停止し、宙に浮いたような錯覚。
目の前が、真っ白とも真っ黒とも言えない闇に覆われ、背中に何か触れたような感触があったが、もう既に俺の意識は途切れていた。




暑い。
息苦しい。
身体中の関節がギシギシ鳴っている。
「たっ…孝宏!!」
母親の叫び声。
目を開けると目の前は、見覚えのある白い天井だった。

俺は…寝てたのか?
いつから?
電車に乗ったのは覚えてる。
段々中は人で溢れてきて…。
そこからの記憶がない。

「孝宏!!」
病室の外から鈴音の甲高い声が聞こえて、バタバタと走る音が近づいてくる。
母が読んだようだ。
「あたし分かる!?」
「………誰だっけ」
朦朧とした意識の中でも、冗談を言う頭脳は働いていたようだ。
「えっ、まじ!?忘れちゃったの!?」
「…憶えてるよ…鈴音ちゃん」
「よかったぁ、びっくりさせないでよもー」
鈴音はベッドの横にある椅子にへたり込むように座った。
「覚えてない…よね?」

結局あの後、俺は倒れたそうだ。
周囲は騒然となり、うち一人が救急車要請したらしく、俺はいつものこの病院に運ばれてきた。
それから丸一日眠っていた。
「まるでお姫様だね」
「うるせぇよ」
「じゃあお嬢様か」
「喋んな」
「…ヒドイなぁ」



鈴音が帰った後、俺と両親は医者に呼ばれ、そこでもう退院は不可能宣言された。

退院不可能=もう長くない

そんな方程式が頭に浮かんだが、さして気にする様子もなく普通に振る舞った。
どうせ覚悟の上だ。
持って生まれた運命。
逆らう事なんて出来ない。

きっと俺は自分の病気の名前すら知らされずに死ぬんだろう。
それでいい……。
知ったところで何も変わりやしないんだから。


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