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ガラス細工の青い春
【純愛 恋愛小説】

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 祭りの日はいつなのか、ぐらい知っていた。いつもメールは圭司から。時には自分からメールをしてみようと決心し、メール作成画面を開くのだが、なんと誘えばいいのか分からない。文面が浮かばない。
 圭司と祭りに行くこと自体は決まっていて、圭司だってそれを知っているのだから、今更誘いのメールをするのもおかしい訳で、とは言え『何時にする?』というのも何だか素っ気なく、考えあぐねた結果が『お祭りは誰か誘うの?』だった。送信ボタンを押してから、酷い文面だと思いベッドに突っ伏した。恋人同士で行くのは当たり前の事なのに、「誰か誘うの」はないだろう。
 返信は割とすぐに返ってくる。圭司はマメなタイプだ。
『行けばユウ達と一緒になると思うけど。誰か誘いたい?』
 本当は二人で行きたいのに、そう素直に言えない自分に辟易する。結局、圭司が当日の集合時間を決め、圭司の家の前に集合する事にして、学校の近くにある神社まで圭司の自転車で行く事になった。
 祭りの日に門限七時半では厳しいので、清香は親に直談判を試みて、八時半まで伸ばしてもらう事に成功した。

「あれ、今日はこれだけ?」
 優斗の言葉に清香は「咲は清水先輩と一緒、幸恵と留美は予備校が終わったら来るって」と伝える。
 雅樹は神社には来ているが、どこにいるのか不明で、後から合流する事になった。秀雄が「腹減ったな」と口を開いたので、とりあえず出店をざっと流す事になった。
「清香、何かやりたい物は?」
 圭司の声に腕組みをして考えるも「何もない」としか返答できず、男性陣も「なら飯食うか」と手分けして食料調達をする事になった。
 焼きそばやたこ焼きなど、考えつく食べ物は片っ端から買ってきて、神社の片隅に座った。奥の方で、浴衣を着た二人組の女性が、無言で携帯をいじっている。
「雅樹はどこ行ったんだ?」
 優斗は何度も電話を掛け直している様子だが、雅樹は電話に気付いていないらしい。
「そのうち気付いて掛け直してくるんじゃないの?」
 冷静な清香の声に「そっか」ぽつりと言い、携帯をポケットに仕舞った。
「幸恵と留美は八時に予備校が終わるって言ってたから、私は入れ替えで帰るから」
 清香の声に優斗が「え、何で!」と大きな声を上げる。清香は圭司の目が気にならないでもなかった。
「今日の門限八時半だから。八時にはここ出ないと。歩きだし」
 その声に思いがけず反応したのは圭司で「何で歩きなんだよ、俺送って行くよ」と少し口を尖らせている。
「いいよ、折角のお祭りだから、楽しんで帰りなよ。私なら歩いて帰れるから」
「そう言う訳にはいかねぇ。チャリで送ってからまたここに戻るからいい」
 鈴カステラをぽいと空に投げ、口でキャッチすると、清香に顔を向けて「な」と首を傾げてみせる。
 清香は無下に断るのも悪いと思い「じゃぁお願いします」と言って焼きそばを口にした。
 境内の隅に転がっているボールを発見し「ボールだ!」と走ったのは優斗で、その動きは幼稚園児さながらだ。しかしボールに反応しているもう一人もすぐに箸を置き、「勝負」と言って立ち上がる。
 清香と秀雄を残して、圭司と優斗は少し開けた場所でリフティングの勝負を始めてしまった。
「好きだね、二人とも」「だね」
 秀雄は中学まで野球をやっていたけれど、肘を痛めて高校では部活に入らなかった。
「秀雄はリフティングできるの?」
「あいつらみたいにはできないな」
 目の前で跳ねるボールは、一度も地につかないまま、手に触れられないまま、二人の間を行き来する。夕闇の中、二人の顔は生き生きと輝いていて、ボールにというよりは、二人の雰囲気に清香は心を引き寄せられる。
「清香さぁ、圭司で良かったの?」
「は?」
 清香はおかしな物でも見るような目つきで秀雄を見遣る。
「いや、ユウじゃなくてよかったのかな、って」
 圭司と同じような事を言うんだなと思うと、周りからはそう思われてたのだと改めて感じる。完全なる勘違いなのに。
「優斗の事は何とも思ってないよ。何か勘違いされてるみたいだけど」
 秀雄はフハハと笑って清香を見ると、ひと呼吸置いて大袈裟な程の笑みを浮かべて「俺じゃダメだった?」と問うので清香は驚いて目を見開く。
「何それ、何の冗談?」
「圭司じゃなくて俺って選択はなかったのかなって。俺ポニーテールが似合う女の子が好きなんだ」
 自分の後頭部から流れる一筋の髪の流れをぎゅっと握って「何それ」と再び零す。早くリフティングを切り上げて、圭司にここへ来て欲しい。切に願うが、ボールはなかなか地に触れない。
「圭司と別れたら、俺と付き合うって事も考えといてよ」
「バカ言うな」
 たちの悪い冗談、そう言って清香はペットボトルの水をぐいっとあおる。友達の彼女に掛ける言葉か、と怒りすら覚えた自分の顔が、酷く歪んでいるような気がして、暫く下を向いたまま顔を起こせずにいた。
 ポン、と頭を触られ顔を上げると、圭司の顔があった。
「どうした」
 うまく笑えないまま「なんでもない」と言うけれど、きっとうまく笑えていない事が伝わっているのであろう。清香は笑う事を断念し、額に拳を当てた。「後で話す」
 優斗はボールを元あった場所に戻すと「清香の水ちょーだい」と無邪気にペットボトルをかっさらって行く。「あ」と声を出すが「いいよ」と呟くような圭司の声に遮られ、その声があまりにも優しかったので清香は口を噤んだ。



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