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今宵の君は一人だけ
【初恋 恋愛小説】

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今宵の君は一人だけ-2


「…」
それを見た多久はグッと歯を噛み締めると、静かに言った。
「…その人は今どこにいるんすか?…なんで…なんで…初雪さんにそんな表情をさせてるんすか?…ねぇ!!初雪さん」
初雪は口ごもった。そして唇をギュッと噛み締めると多久を睨みつけた。
「…河瀬君には関係ない…もぅ…ほっといて…」初雪の目には涙が溜まっていた。
「初雪さん…逃げないで下さい…何があったか知りませんが…逃げてたら…前にすすめませんよ?」多久の意外に冷静で落ち着いたその態度と声に、初雪はいつしか涙がこぼれていた。
そしてなぜか初雪は多久に全てを話していた。伸汰という金持ちの息子との恋…人目を避けての夜だけのデート…伸汰の両親からの邪魔…その全てを多久に話した。
そして初雪が話し終わると多久は驚いたように目を見開き唾をゴクンと飲んだ
「…えっ…と…ごめんね…こんな昔話…軽蔑した…?」
多久の驚きように初雪は軽蔑されたのだと勘違いしたのだ。
「…いっ…いや…軽蔑だなんて…そんなこと……ゴクッ」多久はあきらかに動揺していた。初雪はそんな多久に怪訝そうな顔をした。そんな初雪にきずいた多久は初雪から目を反らすと苦笑いをして
「もし…もしも…オレがその人知ってるっていったら…初雪さん…どうする?…」
「えっ…」
予想もしていなかった返答に初雪はおどろいたが、初雪には正直どうしたらいいのかわからなかった。すると多久が、
「しっ…伸汰さんは…今…パン屋をしてます…十二年前に付き合ってた彼女を探すんだって言って……実家を出て…一人で…」「なっ…なんで…だってシンちゃん一人息子だったのに…シンちゃんがあのおっきな家継ぐはずだったのに…だからお嬢様と結婚しなきゃならないって…お義母さまが…なのに…なんで…」
「伸汰さんは…恋人…初雪さんを守りたかったら結婚しろって脅されてたらしいんです…だから結婚寸前までいったみたいなんすけど…伸汰さんご両親に手紙書いて出ていったみたいなんす…」……−拝啓 お父様お母様へ
オレはもう運命の人に出会ってしまいました。なのでこの婚約破棄させて頂きます。オレはこの家を相続する気はさらさらありません…なので養子なりなんなり、オレと違う誰かを相続者として育ててください。今後一切オレとは関わらないで下さい。オレはあなたたちと親子の縁を切らせていただきます…いままで育てていただいてありがとうございました。ではご機嫌よう…p.s初雪に指一本ふれないでください…もし何かしたその時は…容赦しません…−

「シンたゃんが…家を出た…の?…でもなんで河瀬君が知ってるの?」
初雪の問いに多久は苦笑いをしながら言った
「だって…オレが伸汰さんのパン屋…一緒に作った友達ですもん…んでそん時に全て教えてもらったんです…でもまさかそれが初雪さんのことだったとは…知らなかったですけどね…へへっ…」元気なく笑ったその表情からはいつもの多久の笑顔とは程遠いものだった…「初雪さん…行きましょう!!」バッと!!真剣な顔に変わると多久はおもむろにそんなことを言った。そして慌てる初雪の手を引っ張って走り出した。
「…ハッ…ちょっ…河瀬…君…ハッハッ…待ってぇ〜…」
「ヘヘッ☆待たない〜♪もうすぐ着くよ初雪さん☆」多久いつもの明るさをとりもどすと、初雪の手をギュッと少しだけ力を込めた。…もう二度とこうして握ることのない手の感触を覚えておくように…
「さっ☆着いたよ」
「ハァ〜ハァ…ゴホッ…ゴホッ…ハァハァ…ゴクン…」
多久とは裏腹に初雪は息も絶え絶えに、膝に手をつきながら木でできたログハウスみたいなパン屋をめにした。
カランカラン♪
空き缶か何かで作ってあったベルの代わりらしきものを多久がならすと、ログハウス…いや…パン屋に電気がともった。そして数秒もしないうちに、男が現れた。それは初雪にとって懐かしく十二年間ずっと探し続けていた顔だった。髪が少しのびていたけれど、それでも他はあまり変わってなく初雪はまた涙を流していた。
伸汰の方も驚いたように固まっていたが、初雪の涙を見ると優しく微笑み親指で初雪の涙をぬぐうと抱き寄せた。それを見た多久はそっとその場から離れた。そしたら何か冷たいものが多久の鼻の頭に落ちてきたので、ふと上を見上げてみると、雪がヒラヒラと宙を舞っていた。多久はそれを見ると、独り言を言った。「大好きだったよ…初雪…」そういった多久の顔に多久の温度で溶けた雪が流れて行った。まるで…涙のように…


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