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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第5話-4

―――圭輔と会ってからさらに2週間程過ぎた頃、英里は高校時代の友人と食事をしていた。
彼女は服飾の専門学校に進学したため、進路は分かれてしまったが、それぞれの学校の所在地は近いので、今でもよく会っている。
「ねぇ…会いたい時に会いたいって言うのはわがままかなぁ」
「え?」
英里は笑顔を貼り付けたまま、一瞬、顔を強張らせた。。
今、自分が悩んでいる事と全く同じ事を友人が切り出したからだ。
「…新しい人と付き合ってるの?」
「うん。でも社会人で忙しいみたいだから全然会えなくて…」
状況まで全く同じだ。
英里は、自分の感情を彼女に悟られないよう、俯き加減で箸を動かす。
「仕事が忙しいなら仕方ないんじゃない?」
「でもさ、仕事と彼女とどっちが大切なのって言いたくなっちゃう…」
「仕事があるんだし、そんな子供みたいなわがまま言って困らせない方がいいんじゃない…?」
この台詞は、まるで客観的に見ている自分が、もう1人の自分に言い聞かせているようだ。
互いの予定が折り合わず、これからも当分会える時間が取れない。
だが、彼女の性格的に、無理を押し切ってでも会いたいという気持ちを通すような真似はできないのだ。
正面に座る彼女は、ふぅ、と小さく溜息を吐くと、
「英里ってさ…理性的。さすがずっと遠恋してるだけあるよね。でも、あたしには無理。会いたい時に会えないと、さみしくって我慢できない…」
その友人の言葉に、英里は耳を塞ぎたくなる。
必死に覆い隠そうとしている自分の本心を暴かれているようで、痛い。
(私だって、言えるものなら、とっくにそうしてる…)
「…英里!?」
突然ぽろぽろと涙を零し始めた彼女を見て、友人は驚いた声を上げる。
「…あれ?」
頬を伝っている涙に触れて初めて、英里は自分が泣いている事に気付いた。
何故、涙なんて…。
「英里ごめん!あたし何かひどいこと言っちゃった!?」
「違うよ…何でもないから、気にしないで」
英里は慌てて涙を拭い、必死に微笑んでみせた。


友人と分かれた後、自宅に戻った英里はベッドの上に横向きに寝転がる。
まるで、拗ねた子どものようだ。
でも、メールや電話だけでは物足りない。
少し、顔を見るだけでもいい。会いたくてたまらない…。
自分で思っている以上に、圭輔と会えない事は英里にとって堪えているようだった。
しかし、会いたいという気持ちを素直に出せる彼女ではない。
いつでも簡単に男に甘えられるような女ならば、こんなに苦しむ事はなかっただろう。
だが、彼女のプライドが決してそれを許さない。
抑圧された行き場のない感情が、彼女の中で渦巻く。
――英里の手が、自然と自分の胸元の上へと動く。
目を瞑って、自分自身の手で柔らかな膨らみを包み込むと、彼に触れられているような錯覚に陥る。
だが、それも一瞬の事だ。
自分の手と彼の手の大きさはこんなにも違っていて、指の長さもまるで違う。
体の快楽だけを求めてしまう、満たされない虚しさ。
優しく胸を撫でながら、気持ちが昂ぶってきた英里は、徐々に自分の秘部へと手を持っていく。
片手は胸に置いたまま、下着越しにそこに触れる。
上辺の突起に触れると、ぴりっとした快感が走る。
自分が、とても背徳的な行為をしているような気分だ。
下着の縁から指を差し込むと、淫裂からはうっすらと愛液が滲み出ていた。
人差し指で直接突起に触れ、少し堅くなり始めているそれを優しく撫でる。
「っ…!」
声が漏れないように、必死に抑えながらも、慰める指は止まらない。
(違う、私は、こんな事がしたいんじゃない。あの人に会いたいだけなのに、なのに…!)
あまり自慰に慣れていない英里は、ぎこちなく指を動かし、感じるポイントを探る。
「うぅっ…んぁっ…」
徐々に、息遣いが荒くなる。
愛液の分泌量はどんどん増してゆき、彼女の細い指先を湿らす。
したくない、そう思っているのに、勝手に快楽を求めて動いてしまう体。
その苛立ちのせいか、片方の手は強く乳房を握り締める。
まるでいたぶるかのように、荒々しく胸を揉みしだく。
もう片方の手は下着の中に、濡れた指の腹で肉芽を擦ると、鋭い快感が雷のように体を駆け抜ける。
「んっ…く…ふぁ…ん…」
鼻に掛かったような甘い嬌声が漏れるのを堪えられない。
とろとろと蜜が溢れ出ている泥濘に、そっと指を差し込むと、くちゅり、という粘着質な音が彼女の耳に届く。
今までそこを自分で触った事はないが、中は温かく、彼女の指をきゅうきゅうと締め付けてくる。
1本の指をゆっくりと出し入れする度に、鈍い快楽を彼女の脳髄に伝えてくる。
「あっ、はぁっ…」
目を瞑ると、彼の息遣いも聞こえてくるかのようだ。
既に、下着はぐっしょりと濡れている。
その行為に耽っていると、突然携帯の着信音が鳴り、びくりと英里は体を震わせた。
ディスプレイには、彼の名前が表示されている。
「…。」
部屋中に着信音が鳴り響いている。
英里は携帯に手を伸ばしたが、触れる直前で手を止める。
愛液が糸を引いている汚らわしい自分の指を目の当たりにして、そのまま動けない。
それに、この着信音はついさっきまで自分の指の動きと重ね合わせて思っていた彼からで…。
もし、この乱れた声を彼に悟られてしまったなら、跡形もなく消えてしまいたくなる。
40秒近く鳴っていただろうか、そのままぷつりと音は途切れた。
結局、英里は電話に出られなかった。
自分の指で自分を慰めて、感じている…。
1人でこんな事をしてしまうなんて、何て淫靡な人間だろう。
濡れた下着の感触が、ますます不快感を煽る。
高校生のとき、彼と頻繁に会えていた頃は、したいだなんて思ったことなどなかったのに。
英里は、火照った体が急激に冷めていくのを感じた。


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