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おぼろげに輝く
【大人 恋愛小説】

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13-2

 翌日、午後の面会時間に合わせて病室に行くと、ベッドサイドには誰もいなかった。俺は昨日と何ら状態の変わらない眠り姫の横に椅子を置くと、座って、その顔をじっと見つめた。
 上下が合わさるまつげが、意外と長い事に気付く。それはカールする事なく、真っすぐに伸びている。だからこそ、目の辺りに影を作り、物憂げな表情に映るのだと納得する。鼻はそんなに高くなく、その下に、最大でどれぐらいまで開いた事があるのか分からない、桜色の唇がある。彼女が声を張り上げるところを見た事がない。口なんて六割ぐらいしか開いてないんじゃないか。
 そんな風に観察していると、お母さんがやってきた。
「お邪魔してます」
 そう言って頭を下げると「ありがとう」と礼を言われる。今日必ず目を醒すと分かっているのなら俺は、二十四時間臨戦態勢で待機するのだが、醒す確約もないし、病院側から帰れと言われるだろう。結局この日、俺が病院にいる間、彼女は眠りの森から帰って来なかった。途中、園山さんが見舞いに来たが、俺と二言三言言葉を交わし、ご両親に挨拶をすると、すぐに帰って行った。そりゃそうだ、彼女は眠ったまま、話もできなきゃ返事もできないのだから。

 連絡がこなければ俺からしないつもりだった。だけどそう思う時に限って、携帯は鳴るのだ。
 病院の中では携帯電話の電源を切るようにとあちこちに看板が出ているけれど、入院患者ですら携帯を鳴らしている昨今、この規定を守っている人間がどれ程いよう。俺はマナーモードにしてある携帯をちらりと見て、智樹からの着信である事を確認した。
「今日は帰ります。また明日来ます」
 昨日と同じことを言っていると思いつつ、お母さんに頭を下げ、病院から出た。この時間に智樹から連絡が来るという事は、今日は土曜か日曜か。そう思って腕時計に目をやると、土曜日だった。
 着信履歴が赤で示す電話番号にカーソルを合わせ、通話ボタンを押すと、短い呼び出し音がぷつりと切れてすぐ、智樹の声がした。
「出るの、はやっ」
『おう、今忙しいのか』
「いや、もう終わった。何かあった?」
『うん、また飯でもどうかなと思って。曽根山さんも誘って』
 道端に、空き缶が転がっていた。蹴り飛ばすかどうか迷った挙げ句、俺はそれを道の端に立てて置き、再び歩みを進めた。
「曽根ちゃん、今、意識不明」
『な、ハァ?』


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