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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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fainal2/2-3

(一球外せ)

 バントのふりをしてヒッティングの作戦かも知れない。省吾はひとつ、牽制球を投げた。
 大きめにリードを取っていたランナーが、頭から一塁に飛び込む。その際、バッターがバットを引くなどの仕種は見せなかった。

(どうやら、ヒッティングは無なさそうだ)

 達也は、最もバントのやり難い内角高めを要求する。
 省吾が、ランナーを気にしながら小さく速いモーションで左腕を振ると、同じくしてサード乾とファースト一ノ瀬がホームへと突っ込んだ。
 力強いストレートが、達也の構えたミット目掛けて向かってきた。
 バッターは、身体近くのボールに窮屈そうな格好でバットを出した。

 ──コンッ!

 擦ったような音がした瞬間、達也の目の前をボールが上がった。

「バック!」

 省吾が、後方へのフライだと叫ぶ。達也はマスクをとって振り返る。小フライとなったボールが頭の高さに落ちてきた。
 次の瞬間、達也は主審を押し退け、ボール目掛けて飛び込んだ。身体を滑らせ、地面とのわずかな隙間にミットをこじ入れる。
 達也はうつ伏せに滑り込んだ体勢のまま、ボールの収まったミットをかかげた。

「アウトッ!」

 主審が尻餅をついた格好で右手を振った。
 達也は跳ねるように身を起こすと、掴んだボールを一塁目掛けて送球した。かなり離れていたランナーが、慌てて一塁に戻るのが見えたのだ。
 一ノ瀬のカバーで一塁に入ったセカンド森尾が、ボールに向かって目一杯に身体を伸ばす。ランナーは頭から滑り込んだが、わずかに間に合わなかった。

「ランナーアウト!」

 一塁々審の右手があがった瞬間、三塁側ベンチ、スタンドから歓声が騰あがった。
 相手に傾きかけていた試合の流れを、ひとつのきっかけで一気に引き戻す。値千金のプレイだ。

「ふぃ〜、上手くいったぜ」

 達也が身体についた土を払い落としながら、自分のポジションに戻ろうとすると、前に省吾が立っていた。
 土埃を被った達也のマスクを、自分のユニフォームで拭って差し出したのだ。

「あ、ありがとう」

 今まで見せたことの無い行動に戸惑う達也。省吾は黙ってマスクを手渡すと、逃げるようにマウンドに駆けていった。
 受け取ったマスクを着けて、達也は思わず顔がにやけた。

(この頑固者が……)

 このプレイで、グランドの空気はがらりと変わった。
 バッターは四番。ここを抑えれば沖浜中の流れは止められるという大事な局面だ。

(穴が少ないバッターか……)

 ホームランこそないが、四割を超える打率と五割近い得点圏打率。弱点を探る達也が、最も頭を痛めた打者だ。

(左対左なんて意味ないな)

 緊張の初球は内角を抉るボール球。省吾は頷くと、投球動作に入った。
 達也は、半身が隠れるほどバッター内に寄った。わずかでも甘くなれば痛打されかねない。


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