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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 5-6

 一匹の魔族が、兵たちの頭上を飛び越えて、本殿の屋根に跳ね上がったのだ。
 節のついた五対の脚を持つ、蜘蛛のような怪物だった。
 それに続くように、他の三体も本殿の建物に取り付こうとしている。

 屋根を乗り越えて奥の院に向かわれては困る。
 そう思って、追いかけようと地を蹴ったアハトはすぐにその必要がなくなったのを知った。
 残りの魔族は、奥の院に向かわなかった。
 本殿裏口を抜けて退却する親衛隊にも目をくれず、彼らはがらりと方向転換した。

 アハトの方へ。

「……?」

 アハトは不意に違和感を覚えた。
 人の兵士と魔族はまるで別のものを求めている。

 どういう手法を用いてかは知らないが、人の軍が魔族を従えているのだと彼は考えていた。魔族が敵の兵士を傷付ける気配がなかったからだ。
 何らかの方法で魔族を心身喪失させ、操って闘わせる。
 そうした秘術が、古い時代には行われていたと聞いたことがある。
 伝承をもとにした子供向けの絵本にも、魔法使いが魔物を使役するというエピソードが出てくる。
 なので、そんな術が実在するか否かは別として、発想としてはまるきり馴染みのないものではない。

 だが、これは違う。
 魔族は彼を追ってきた。アハトをまっすぐ見据え、自意識をもって彼に襲いかかってくる。
 自意識をもって、人間の軍隊に協力しているのだ。人とは別の目的のために。

 そんなことが可能だろうか。
 利害を一致させて協力体制を敷くには、言葉による交渉が不可欠だ。
 魔族同士ですら意思の疎通はめったにないというのに。
 ハヅルの爆破で、かなりの数が消し飛ばされたはずだ。それだけの数の魔族が、一つの目的のために結託するなど……

 頭の隅で考えながら、彼は今の問題はそんなことではないと打ち消した。それはすべてが終わったあとの話だ。
 問題は、目的が彼個人なのか否かだ。
 アハト自身に魔族につけ狙われるいわれはない。
 羽虫型の魔族が捕食行動に出たことから鑑みると、求められているのは彼個人ではなく、彼という種族のように思われた。
 それも、王家の兄妹をわざわざ襲うということは、ツミの中でも、彼らを守護するような強力な力を持つ者が狙いなのだ。

 ならば、標的は彼一人ではない。もう一人を思って、彼はわずかに焦燥を覚えた。

 彼女は変化できたようだから彼よりも条件は良い。
 だが、真っ白い羽根の幼なじみが、魔族の大群に襲われ食われるイメージは、一たび脳裏に浮かぶと、なかなか消えてくれなかった。

「……ハヅル」

 いったい何が起こっている。
 向かってくる魔族に身構えながら彼は小さくひとりごちた。



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