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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 5-4


 青っぽい球型に突き出した複数の単眼と、巨大な一対の複眼とが、無表情に彼を睨む。
 魔族は彼と対峙すると、透きとおった二対の巨大な翅を広げた。
 身体は巨大ではあるが、翅に対してひどく細い。白っぽい外皮の内部に、赤みがかった淡黄色の筋と内臓がうごめくのが透けて見える。
 一見では羽虫のような外見なのだが、胸部から突き出た脚は人間そのものだった。
 青白く、なまめかしくすらある女の脚の、腿から下が三対。
 最前肢だけが人の背丈よりも大きい。あとの二対は極端に小さく、両脇からぶら下がっているのみで、体を支える役を果たしていない。
 何節にも分かれて先細る腹部は力なく地を引き摺られ、その先から垂れ下がる三本の尾が、蛇のようにぐねぐねとうごめいていた。
 羽虫のような魔族は二対の両翅をバサバサと羽ばたかせた。
 しかしとにかく巨大でバランスが悪く、とても自力で離陸できる構造ではない。
 普段は『力』を使って身体を浮揚させるのだろう。だが、神域の内では無理だ。

 尾がしなり、風の唸る音をたててアハトを襲う。彼は咄嗟に身を低く屈めて避けた。
 一本が頭上すれすれを通り過ぎ、わずかな時間差で飛んで来た二本目は、彼を打ち据えるのではなく柔軟な動きで捲きつこうとした。
 アハトは刀剣の刃を立てて、それごと捲きつかせた。締めつけようとする尾を、内側からぶちぶちと断ち切る。
 そのまま彼は地を蹴って跳んだ。刀剣を振り下ろし、複眼が面積の大半を占める頭部にざくりと斬りつける。
 人の血に似た、粘る赤い体液が傷口から噴き出す。
 そのまま胴体まで刃を食いこませようとした彼の足首を、何かが掴んで魔族から引き剥がした。

「……っ」

 尾の一本だった。
 それも捲きついているのではない。掴んでいる。

 白い尾の先端部は五本に分岐し、人の手に酷似した構造をしていた。
 女の手のようななめらかな白い指先に、薄紅に色づいて尖った爪までついている。
 空中を振り回され、地に叩きつけられる寸前に、彼は手首状の部位から尾を切断した。
 からくも手をついた着地した彼に、好機とみてか魔族はのしのしと人間の脚で体を引き摺って近付いてきた。

 体のわりに小さな口吻の先がぱっくりと横に割れる。
 捕食する気か、とアハトは顔をしかめた。
 彼は掴みかかってきた残り一本の尾を、今度は逆に両手で受け止めると、抱え込むようにして引っ張った。
 バランスの悪い体がぐらりとかしぐ。彼は迫ってきた口吻を根元から叩き斬り、返す刀で頭部と胸部の接続部に刃を食い込ませた。
 半ばまで刃を進め、筋や神経のぶちぶちと断ち切れる感触が彼の手に伝わる。
 複眼から光が失われる瞬間、最後の足掻きとばかりに魔族の前肢が振り上げられた。彼を蹴り殺そうというのだ。
 アハトは刃を滑らせて一気に頸部を斬り裂きざま、後ろに跳んで蹴りをかわした。
 人の女のような脚は結局何もない空を蹴りつけ、そのまま力を失うと、体ごと地に崩れ落ちた。


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