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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 5-1

※※※


「お、来たな」

 本殿の屋上から前方に広がる広場を見ながら、王子は楽しげに声を弾ませた。
 樹海に身を隠しながら進んできた軍隊が、ようやく姿を現したのだ。

 偵察の報告どおり、思ったよりもずっと遅い到着だった。おかげで迎え撃つ準備は万端だ。

 参道を抜け、開けた空間にずらりと陣を組んだのは、数十の騎兵と数百の歩兵だった。
 全体に重装備でないのは、夜闇にまぎれての速やかな移動のためなのだろう。口上もなく、彼らは粛々と軍を進めた。

 隊列の先陣が、広場の中ほどまで来たのを確認して、王子はすっと手を挙げた。
 本殿前に敷かれた木柵に身をひそめた親衛隊の面々が、ぐっと弓弦を引きしぼった。親衛隊長が王子に手を振る。
 王子は頷いて、挙げた手を前方に振りおろした。

 合図とともに、一斉に矢が放たれた。
 矢が弧を描いて、正確に敵兵に突き立つ。
 ぱらぱらと、最前列の兵が抜け落ちるように倒れ、進軍の速度が緩んだ。
 その間に、親衛隊は次の矢をつがえていた。
 敵の隊列は、盾を突き出しながら慎重に進軍を再開した。間断なく矢の斉射を受けながら、じりじりと、確実に前に進んでくる。
 王子は、軍の後列を睨みながら、ゆっくりと逆の手を横に掲げた。
 タイミングをみはからいながら、油布を巻いた矢じりに火が点けられる。
 後列が十分に近づいたとみた瞬間、王子は火矢を放つ合図を出した。

 一帯には、備蓄されていた油と、かき集めてきた燃料用薪、厩舎の草藁が撒き散らされている。
 地に染み込んだ油に着火したかと思うと、火は遮るものもなく燃料を求めて乾いた草藁に燃え移った。

 炎が、ごう、と空気を巻き込む音を立てて広がる。

 よくひきつけてから火を放ったために、敵は前にも後ろにも逃げる間もなく火に囲まれた。

「よし、どんどんやれ!」

 王子が目を輝かせて、さらに射かけるよう指示を飛ばす。
 一帯は、一挙に赤々と照らし出された。


 一連の出来事を王子の隣で眺めていたアハトの目に、軍隊に遅れて森から抜け出てきた何かが映った。
 火炎にまかれて苦しむ兵士たちの合間を、数体の影が平然とすり抜ける。
 明らかに人ではない形をした影に、アハトは眉を寄せた。懸念は当たっていたようだ。

「王子、下がってください」

「何言ってる。俺はここから皆に指示をだな、」

「指示なら上からでいい」

 業を煮やしてアハトは王子の襟首をつかんだ。そのまま引きずって歩き出す。

「おいこら何をする!」

「いいから、姫と一緒に奥に引っ込んでいてください」

 王子が抗議の声を上げながらじたばたと暴れる。アハトはちっと舌を打って、自分よりかなり大柄な王子の胴体にタックルをかけた。

「わっ!」

 王子がさすがに虚をつかれてバランスを崩す。くの字に折れ曲がった王子の体を、アハトは肩に抱え上げた。


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