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死角空間
【SF その他小説】

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そいつの正体-2

翌朝俺は目覚めるとすぐに、たった今見た夢を思い出した。
空中を俺は飛んでいる。
俺は植物の種のような薄い膜に覆われた小さな物質だった。
その膜に覆われていると俺の姿は見えない。
俺は死にかけた人間の体を見つけて近づいて行った。
その人間は首を吊っている俺自身だった!
そこで目が覚めた。
そして俺は寝る前に考えていた謎が解けたような気がした。
そうなんだ。今俺の体の中で『かくれんぼ』をしている奴がいるんだ。
そいつは『鬼』の俺に見つからないように上手に隠れていたが、俺が眠っている時に安心して隠れ場所から姿を現したのだ。
そして自分の記憶を俺の夢の中で見せてしまった。
あの夢は俺の夢じゃなくて、そいつの夢なんだ。
何かが俺の中に侵入した。
そいつは俺が首を吊って仮死状態のときに俺の体内に入り込んだのだ。

それ以来俺は見た夢を全て記録し分析し続けた。
結果こういう結論に達した。あくまでも推論にすぎないが……。
俺はどうやら蜘蛛の巣に捕まった虫けらのような立場にあるらしい。
こういう恐ろしい罠が現実の世界にあったなんて今まで勿論知らなかった。

首を吊って意識を失っている俺の鼻の穴から何かゼリー状の物が入り込んだ。
そいつは仮死状態の人間の体になら入り込めるらしいのだ。
遠い過去に宇宙から飛来して来たのか、それとも異次元世界から紛れ込んだのか、どうやらこの地球上には人類誕生以前から生息していたらしい。
そいつの体はピンポン玉のように小さくて、体がすっぽりバリアに包まれている。
そのバリアの中は次元の違う空間になっていて、現実の空間と違うので視覚で捉えることができないのだ。
このバリアが植物の種の皮のように外敵からこいつを守っているのだ。
空中をふわふわ漂っていても鳥に食べられることもないのだ。
だから人類の長い歴史の中でも、発見されずにいたのだ。
けれども何かの理由で仮死状態になった人間に乗り移ってこいつが寄生することがある。
つまり通常の状態では人類の免疫作用で寄生することが困難なのだ。
こいつは人間に寄生すると、宿主の人間の体を自分のバリアですっぽり覆ってしまうのだ。
そいつは俺の筋肉を使って怪力を出した。
ぶら下がっている俺の体を懸垂させて枝まで持ち上げ首の縄を外したのだ。
そして地面に落ちた俺を蘇生させるべく、体内に酸素を送り、破損した細胞を修復したのだ。
そして細かく分岐して俺の体内の毛細血管の隅々にまで自分の体組織を潜り込ませた。
そいつは俺の体を借りて生き延びようとしているパラサイトのようなものだ。

そして宿主が食事をしたり排泄をするときに空間を開いて出入りを自由にさせるのだ。
宿主が食事をしないと自分の体に栄養が行き渡らないからだ。
だがこいつ自身には食物を消化し栄養を摂取する力はない。
そしてもう一つ重要なことはこいつは分裂によって繁殖するらしい。
分蜂するとき蜂の群れが巣から出るように、分裂して同じ宿主に留まる訳にはいかない。
その為にこいつは宿主のセックスを利用するのだ。


ホテルの部屋で若い娘を空間に入れたのも、繁殖が目的だったのだ。
あのとき俺がセックスをしたとしても、奴は俺の射精と同時に自分の分身を娘の子宮に放出したに違いない。
何度も言うが俺は蜘蛛の巣に捕らえられた虫けらと同じ立場なのだ。
そしてあの娘も危うく蜘蛛の巣に捕らえられた蝶と同じ運命を辿るところだったのだ。
俺はここまで分析して思った。いったいこれからどうすれば良いのだと。  


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