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恋に変わるとき
【青春 恋愛小説】

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ムカつく男-3

「大体ね、頼みごとしてそれがダメだったからって逆ギレなんてどんだけ図々しいのよ。

どうしてもやんごとなき事情で、すごい低姿勢でお願いするならしてやらないでもないけど、初対面の人にそんな口のきき方するような奴の頼みごとなんて絶対受けてあげない!」


「なんだよ、融通きかねえ女だな。やんごとなき事情なんだよ、こっちは」


「だから、どういう事情なのよ!!」


「実は……俺の母ちゃんが救急車で運ばれたから今すぐ病院行かなきゃいけねえんだ」


「え……」


そう言って男が悲しげに目を伏せた時、あたしはなんでかキュウッと胸が苦しくなった。


見た目がチャラそうだったからって、女のとこにでもいくもんだと決めつけていた自分が恥ずかしくなる。


人を見た目で判断しちゃいけない、あたしがよく言われていた言葉をすっかり忘れ、あたしはこの人を見た目通りのチャラ男と決めつけていたのだ。


「だから、頼むよ。俺これ落としたら間違いなく留年しちゃうし、そうなったら母ちゃんが悲しんじまう」


悔しそうに歯噛みする男がなんだかかわいそうになってきた。


「……わかったわよ」


「いいのか?」


そう言って、あたしに向けた顔はパアッと明るく輝きだした。


その無邪気な笑顔に再びドキリとさせられる。


早く病院行きたいんだろうな、そう思いながらあたしは彼から出席票を受け取った。


「サンキュー」


そう言って彼はまたキャップを深くかぶり直す。


同時にどこからか携帯の震える音が聞こえてきた。


「あ、母ちゃんからだ」


音の発信源は男のジーンズのポケットからで、奴はそこから黒い携帯を取り出すと、講義中だというのに耳にあてた。


「あ、クルミ? うん、今すぐ行くから。……うん、今日は泊まれるんだろ? 生理はおわったんだよな?」


ちらほら耳に入ってくる会話の断片に自然に眉間に皺がよっていくのがわかる。


……おかしい。お母さんを名前で呼んだり、生理の周期なんて気にするもんなんだろうか。


彼の携帯から漏れてくる女の声は、やけにキャピキャピ甲高い声で、とても中年女性のものとは思えない。


電話を終えた男は、あたしにニッと笑いかけてから、


「じゃあ、出席票よろしく」


と立ち上がった。



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