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恋に変わるとき
【青春 恋愛小説】

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ムカつく男-1

「ねえ」


教室の一番後ろの壁際に座っていたあたしは、肩をトントン叩かれ声のする方を見た。


100人ぐらい収容できる教室は学生がミッシリ詰め込まれていた。


満席だから、座れないであぶれた学生もたくさんいて、そんな彼らは教室の床に座って、友達とコソコソおしゃべりしたり、携帯をいじったりしている。


あたしが今受けている講義“経済学概論”が、学生で埋め尽くされるのは、授業で配られる出席票を提出しないと出席したことにならず、単位をもらえないからだ。


逆に言えば、出席票さえ出せば単位が確約されるチョロい講義だから、ここまで人気がある。


ただ、この出席票はピンクや黄色、白に水色と色分けされていて、日によって提出する色が変わる。


しかもこれは講義の後半で配られ、さらに講義中に先生が言ったキーワードを名前の脇に書かなくてはいけない。


すなわち最初から最後まで講義に参加してないと出席したとみなされないのである。


だからあたし達学生は、めんどくさいとぼやきながらも毎度毎度真面目に講義に参加するのだ。


肩を叩かれた方に顔を向けると、黒いキャップを目深にかぶった細身の男が白い歯を見せてあたしの横にしゃがみ込んだ。


「なんですか?」


訝しげに彼に視線を落とす。


「今日の授業のキーワード、もう言ってた?」


そう言われ、あたしはルーズリーフの隅に書いた自分の字を見る。


「えーと、“メディチ家”ですけど……」


「そっか、ありがと」


そう言って彼はとても教科書やノートが入っているようには見えない小さめの黒いショルダーバッグから、シャーペンと、色とりどりの紙切れを出した。


バッグの口からはセブンスターのボックスがちらりとのぞいて、「この人は煙草吸う人なんだな」なんてどうでもいいことが頭によぎる。


「ねえ、先週の出席票って確か水色だったよね?」


「は、はあ……確かそうだったと思います」


「その前がピンクだったから……今日は白だな」


男はそう小さく独りごちると、白い出席票と思わしき小さな紙切れにサラサラとあたしが教えたキーワードを書き始めた。






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