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お菓子の家のおかしな双子
【ロリ 官能小説】

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ヘンゼルの時間-1

 夢うつつのまま、無意識にグレーテルの手が動いた。
 首からさげた鍵を握られそうになり、僕は急いで取り上げる。

「ん……」

 ほとんど眠っている彼女はあっさり鍵を手放し、今度こそ本格的に眠った。
 危ない危ない。
 彼女が鍵盤に触れたら、呪いは解けてしまうんだから……。
 

 僕はとても臆病でわがままな悪魔だ。
 死にたくないし、グレーテルを死なせたくないし、彼女を愛する事やめるのも、彼女の愛を失う事も嫌だった。
 
 だから僕は、グレーテルに……双子の片割れに呪いをかけた。

 僕は正真正銘、本物のヘンゼル。
 グレーテルと対で生まれた悪魔、ピアニストの双子。

 森に捨てられた可哀想な兄妹なんか、いやしない。
 僕とグレーテルは、二人で一つの存在なんだから、互いを求めるのは当たり前だ。
 僕はグレーテルを愛し、グレーテルは僕を愛した。

 本当に……どうして、『愛を得てはいけないのが、僕たち』なんだろう?

 永遠の命を持っていたら、共に寄り添ってくれる相手を求めるのは当然じゃないか。
 愛したら、その相手を殺したくないのも、当然じゃないか!
 けれど成就した愛は、悪魔にとって死に至る毒薬だ。
 互いの愛に満足した瞬間、世界から消えうせてしまう。
 僕の愛はグレーテルを殺し、グレーテルの愛は僕を殺す。
 だから、決して互いの想いを認めたりしちゃいけなかったのに……。

 グレーテルが消えてしまう寸前、皮肉で残酷な矛盾を解消する手段を、僕はたった一つだけ思いついた。
 彼女に呪いをかけ、自分が悪魔という事を忘れせた。

 そして、あれからもう数百年が経つ。
 霧に覆われたこの館で、彼女は何千回も何億回も『ヘンゼル』のために戦い、『ピアニスト』に犯される。
 彼女が鍵盤に触れ、呪いを解いてしまわない限り、僕は彼女の愛を失わず、同時に得られないまま、彼女を永遠に愛し続ける事ができる。

 ただ一つの誤算は、僕が死神を甘く見ていた事。
 鎌に半分引っ掛けながら奪い損ねた命が、奴等はよほど惜しかったらしい。
 呪いを解こうとどこまでも追って来る。
 奴等が近づくだけで、グレーテルは記憶を取り戻しかける始末だ。
 執拗に追ってくる死神から逃れるため、僕はお菓子の館を作り、周囲を霧で覆い隠した。
 たとえ霧を抜けて来たとしても、貪欲な追っ手が館を貪っているうちに、追い払える。
 半分になってしまった僕だけでは、追い払うのがせいぜいだけれど、彼女を連れて行かせないためなら、どんな苦労だっていとわない。


 愛してるよ、グレーテル。
 けれどこの愛は、成就していないと偽らなくては。
 霧で覆い、全てを曖昧にしてしまおう。

 僕達は生まれた時からずっとずっと一緒。
 白と黒の鍵盤みたいに寄り添い、霧の中で永遠に、滑稽な愛の喜劇を演じよう……。


 終


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