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新・ある季節の物語
【SM 官能小説】

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(秋編)-1

「ふざけんなよ…どこを見て運転しているんだよ…」

昨日、運転しながら思わず吐いた自分の言葉をふと思いだし、まずいと反省する。女だてらに
建設会社でトラックを運転するようになって、言葉遣いまで荒くなってきたのだ。

ただの資材運びと言いながらも、日焼けはするし、まわりは工事現場の男ばかりだから、化粧
なんて、いつのまにかしなくなった。せいぜい日焼け止めクリームを塗るくらいだ。

若い女だったら、まだ男から声もかかるけど、ダサい眼鏡をした四十三歳の男まさりの女に声
をかける男なんていない。いつのまにか男に関心がなくなったのは、離婚した夫のせいだと
勝手に思いこんでいる。


…あら、ユキタさん…ユキタ ミツエさんじゃない…久しぶりね…なかなか最近お会いできな
かったわね…お元気そうじゃないの…ところで、ダンナさん、最近見ないけど、どうかしたの
…なんて、仕事帰りに近所のスーパーの前で会った町内会長の奥さんに皮肉めいた言葉をかけ
られた。

私が二年前に離婚したことを知っているくせに、わざと聞いたのよね…まったく、ムカツク女
だわ。


秋の陽光が、私が住んでいる長屋の窓からおだやかに差してくる。
私は、久しぶりに化粧台の前に座り、鏡に向かいながら誰に語るというわけでもないのに、
ずっと独り言を繰り返していた。


夫が、SMクラブのあんな女に入れ込んでいるなんて、まったく知らなかった…。
「谷 舞子」っていう名前のM嬢がそんなによかったのかしら…十年もいっしょに住んでいて、
夫にSMの変態趣味があったなんて…まったく幻滅だわ…

密かにダンナが持っていた「谷…」って女の写真を見たけど、確かに男好きのするきれいな顔
だった。でも、首輪をされて、鞭でぶたれて悦ぶ女なんて気が知れないし、女を虐めて楽しむ
夫も信じられなかった。こっちから夫に離婚届を突きつけてやった。

でも、毎月の慰謝料だけはしっかりもらっている。トラックの運転手と言っても、給料が安く
て、このオンボロ長屋の家賃を払うのもやっとなのだ。



離婚してからというもの、長屋の小さな庭の手入れも、すっかりご無沙汰だ。金木犀の匂いが、
ふわりと窓からふいてきた秋風に乗って、久しぶりに化粧をする私の匂いとほのかに混ざりな
がら漂ってきた。


何気なく化粧台の前で、ゆっくりと眼鏡を外してみる。今夜は取引先の会社のオーナーである
キムラさんに初めて食事に誘われた。

キムラさんは、私より五歳ほど年上だが、奥さんを早い時期になくされ、今はひとりで暮らし
ているらしい。彫りの深い顔つきなのに、どこかほのかな甘いマスクが私の中を不思議に擽る
男性だった。



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