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朝日に落ちる箒星
【大人 恋愛小説】

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19.久野智樹-1

 結局昨日、君枝と俺は仲直りをし、塁がトイレに行った隙にキスをした。後から塁に「キスしてただろ」と追及されたが、そこは別に正直に言わなくても良い事だと思ったから黙っていた。
 塁と繋がった君枝の唇を、俺は奪い返したんだ。

「もっと暖かい上着、無かったのかよ」
 君枝の服装を見て不安になった。いつもの通り、ピンクのマフラー、グレーのダッフルショートコートにデニム姿だった。山中湖まで行くのに。
「いや、私ダウンとか持ってなくて」
 俺はひとつため息をついて、「まぁいいや、座って待ってて」と言い、自分の身支度をした。勿論、上着はダウンだ。少し大きめの鞄に荷物を突っ込み、小さい鞄とスーツケースしか持っていない塁の荷物も俺の鞄に詰め込んだ。塁はのんびりと体育座りしながら君枝と談笑している。
「おい、そろそろ出るぞ」
 アパートの前まで至が車で来てくれる事になっていた。玄関を開けると、いつもとは少し違う、馬力のありそうな車が停まっていた。中から拓美ちゃんが手を振る。
「塁!会いたかったよ!」
 驚くほどデカい声が拓美ちゃんから発せられて、子犬を連れたおじさんが彼女をじっと見ているのが分かった。
 俺は大きなカバンを三列目にドスンと落とし、奥に座った。
「矢部君、最後」
 塁がそんな事を言い、俺は塁と隣り合わせになった。
「何でこうなんだよ」
「俺に良い思いをさせろ。もうすぐフランスに帰んだぞ」
 何も言えなかった。塁が言いたいのは、君枝の隣でもあり俺の隣でもある席にいたい、そういう事なのだろう。よくもまぁ恥ずかしげも無く言える物だと感心してしまう。
 運転席から、塁に負けないよく通る声で至が話す。
「月曜日は塁の送りは行けないから、今夜が壮行会な。流星群見た後は宴会だからな」
 拓美ちゃんが「楽しみぃ」なんて言っている。結局、前の座席の二人は、二人で飲み比べても始めてしまうんだろう。何となく先が読める。

 途中に昼飯を食べて、山中湖半にあるログハウスの前に車が停まった。
「このログハウスに泊まるから。今管理棟に行って鍵貰ってくるから降りてて」
 至は霜の降りた土をざくざくと踏みながら、少し先にある一軒家風のログハウスに入って行った。
「何かワクワクすんなぁ。ログハウスなんて俺、初めて泊まる」
 塁は本当に子供みたいに瞳を輝かせて「矢部君」と君枝の手を取ってログハウスの周りをぐるりと一周してきた。
「星はどこで見るんだろうね」
 君枝の質問に、俺は周囲を見渡したが、星が見えそうな感じではなく、ログハウスは林間にある。
「どこか見やすいスポットまで歩くって言ってたよ、至」
 拓美ちゃんの言葉に「そっか」と納得し、至を待った。

 ログハウスは、中に入ると広いLDKがあり、二階にはロフト風に一部屋あった。
「俺と拓美ちゃんは二階だな。で、残り三人はリビングで寝る。でいいか?」
 至がこの部屋を選んだ理由が透けて見える様だったが、どうせ至たちは泥酔して、リビングでそのまま寝てしまうだろうし、反対する理由も見当たらなかったから、俺は「いいんじゃない」と答え、残りの二人もふんふんと首を縦に振っている。
「とりあえず寒いな、暖房つけようぜ」
 俺はエアコンのリモコンを探したが、良く見ればエアコンなどという機器は壁に取り付けられておらず、その代わりに石油ファンヒーターが一階だけでも三台、置いてあった。
「相当冷えるんだろうな」
 ぼそっと塁が呟き、皆苦笑した。確かに、昼間の室内でダウンを着ていても寒いぐらいだ。夜はもっと冷えるだろう。三台のファンヒーターを稼働させ、とりあえず荷物を下したり、夕飯の焼き肉用のホットプレートを探したりと各人動いていたが、塁だけが一人、「俺は何もやる事が無さそうだから」と言ってソファに寝転がっていた。何も変わってないな、と俺は破顔した。

 リビングテーブルを囲んで皆で座って今日の予定を話す。
「夕飯は焼肉を頼んであるから、あとで材料を貰いに行ってくるから。そんで終わったら九時ごろ、ここから五分ぐらい歩いたところにあるちょっと開けた所に行って、流星を観ようと思う。終わったら、宴会。以上。酒はこれから拓美ちゃんと俺で仕入れてくるから。ワイン呑めない人はいるか?」
 誰も手を挙げなかった。俺の予想では塁が手を挙げるかと思ったのだが、フランスで免疫がついたのか?
「フランス産のやつ買ってこいよ」
 塁が言うと「何で山梨に来てフランス産のワイン飲むんだよ」と至がするどく突っ込んだ。


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