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深海の熱帯魚
【純愛 恋愛小説】

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.24 太田塁-2

 酒も食べ物も進んできた。例の如く、拓美ちゃんと至は二人酒が始まった。皆、顔が赤くなってきたので、俺は勝手にリモコンを操作してエアコンの設定温度を下げた。が、一人だけ顔が赤くない奴がいた。智樹だ。
 貰ったペンをクルクル回しながら、発泡酒を呑んでいる。俺の隣には矢部君が座り、対面には智樹が座っている。
 先手必勝なのは分かっている。だが何故か今回だけは、なかなか先に進めなかった。俺がやっている事は、智樹を苦しめているだけなんじゃないか。そもそも俺は、智樹も矢部君も、なんて欲張った事をしているんじゃないだろうか。矢部君の為に買ったプレゼントを出すタイミングを逸っしそうだ。

「矢部君、ちょっと」
 俺は何かを振り払うように腹に力を込めて彼女を呼び、智樹に背を向けた。智樹はきっと、分かっている。俺が、矢部君にプレゼントをあげる事を。
 矢部君には「大きな声を出すな」と脅迫をし「お前さんの手袋のボロさ加減に辟易したので、これを進ぜよう」と言ってトリコロールカラーの紙袋から黄緑色の手袋を取り出して手渡した。彼女は「ありがとう」と驚きを含んだ声で目を見開き、それを手に嵌めて見せ、にっこり笑った。俺はどうかしている。これで智樹は何も持ってきていなかったらどうするんだ。
 振り向くと、智樹はさっと俺から目を逸らし、発泡酒を呑んでいた。
「クリスマスだねぇ」
「何だいきなり」
 俺の声掛けに怪訝な顔をした智樹は、ぐいぐい酒を呑んでいる。もともと口数が少ない智樹と、こうして二人、酒を呑んでも会話が続かない。
 手袋を鞄に仕舞いに行った矢部君が戻ってこない事には、沈黙だ。俺と智樹は、じゃれ合ってこその仲なんだ。何か、変な仲だな。
「へっくしゅん」
 俺はくしゃみをする振りをしてテーブルの下の智樹の長い脚に蹴りを入れた。智樹が持っていた缶から発泡酒が飛び出して、智樹の顔に掛かった。
「何してんだコンニャロー」
 俺はアハハと笑っていたが、すぐに矢部君が智樹の横に寄って行って、そばにあったタオルを渡すのを見て、しまったと思った。また俺は混乱する。俺の好きな智樹に、俺の好きな矢部君が優しくする。訳が分からない。
「中二病。病院に行きなさい」
 そう俺に言った矢部君は結局、智樹の隣にそのまま座った。智樹に寄り掛からん勢いで酒を呑んでいる。夏の合宿で矢部君は、酎ハイ一杯で真っ赤になっていた筈だ。今日は何杯呑んでるんだろうか。かなり目つきが怪しい。
 まぁいい。明日は休みだし、ここに泊まってしまえばいい。


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