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深海の熱帯魚
【純愛 恋愛小説】

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.22 寿至-1

「合宿」という名のお泊り会が終わり、すぐに秋がやってきた。銀杏並木はバナナの皮が敷き詰められているようだった。あの葉っぱ、踏んだら滑るんだ。
 大学は後期に入るとともに、専門科目が少々増え、学科によって終了時間がまちまちになってきた。
 それでも我々五人は、授業が終わるとぞろぞろと部室に集まり、くだらないお喋りをして帰る。
 夏の合宿で俺は拓美ちゃんに「好きだ」と公言していて(俺は半分位覚えている)、拓美ちゃんは「森先生に話し掛ける」と公言していた(きっちり覚えている)。
 話し掛けるのであれば、理学部の人間が一緒にいた方が良いだろうと思っていたが、実は森先生は智樹が進む応用生物学科の助教である事が判明し、急遽サークル全員でお昼ご飯を食べ、先生に近づく事にした。塁だけは芸術学部のカリキュラムが他と大幅にずれるので、この会には参加しなかった。

 俺達が昼飯を食べているテーブルの端に、スーツ姿の森先生が座ったのを合図に、智樹が動いた。いつも一人で飯を食べている森先生を自分達のテーブルに誘い込む作戦だ。
 いとも簡単に作戦は成功し、森先生は俺達のテーブルにやってきた。とりあえず拓美ちゃんの顔を覚えてもらおうと、拓美ちゃんの目の前に森先生が座るようにセッティングした。
「これがサークルのメンバーです」
 そう言って皆、頭を下げ、名札を見せた。それからはなるべく、智樹と拓美ちゃんと森先生を会話させるように仕向けた。森先生はなかなか話しやすい先生で、三人を中心とした会話がきちんと成立した。
 俺はとても複雑だった。大好きな拓美ちゃんの恋路を邪魔する事は出来ない。だけど、後押しするのはとても苦しい事だ。それでも彼女が幸せだと思ってくれるのなら、俺は協力しよう。と、口では言ってみるものの、実際に森先生と拓美ちゃんが笑顔で会話をしているのを見ると、ストレートに凹む。俺の鋼の精神をもってしても凹むのだ。

 そのうち、君枝ちゃんの計らいで、森先生と拓美ちゃんが二人で飯を食う事になったらしい。俺は授業の後の部室でそれを聞いた。
「私は離れた所でこっそり本を読みながら二人を見てたんだけど、何か、恋人同士みたいだった」
 そう君枝ちゃんは言った。君枝ちゃんに悪気は無いのは分かっている。だが一発殴りたかった。俺はの心はズタズタだ。
 カリキュラムの関係で、この話に参加していなかった塁が「森って人に、クリスマスプレゼントでもあげたらー?」なんて気のない声で言ったものだから、拓美ちゃんは張り切って「何あげたらいいと思う?」と皆に訊いてまわった。塁なら一発殴ってもいいかもしれないと思った。あ、クリスマス......。
「なぁ、クリスマス会、やるだろ?」
 拓美ちゃんが誰にクリスマスプレゼントをあげようが関係ない。俺達は俺達なりのクリスマス会を開くのだ。そして俺は、拓美ちゃんにプレゼントをあげるのだ。
「え、やるの?」
「ここで?」
 一様にやる気のない声が上がり、俺はがっかりだった。それでも結局、サークルの趣旨としては季節のイベントをやる事になっているので、お酒無しの宴会を部室で開く事になった。


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