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遠回りの幸せ
【その他 官能小説】

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遠回りの幸せ-2

―あれから彼女は俺等の前から消えた。見かける事も、連絡すらも取れない状態だった。
《やっぱ、あの夜・・・・》
考えれば考えるほど分からなくなってくる。いつまで経っても答えも出ず、気持ちの整理もつかない。じきに俺は、彼女の事を考えるのを止めた。それが自分にとっても最良の方法だと思えたからだ。彼女はもう居ない。そう思ったら、少しは気がラクになった。

―それから1年。俺にとっての人生の転機が訪れた。以前からの夢だった、輸入雑貨の会社を友人〈和哉〉と興す事になった。和哉は俺と大学の同期で、いわゆる切れ者タイプ。イベントを主催させたら右に出るヤツがいないほどのプロデュース能力を持つが、学業はさっぱり。俺が卒業する時も、単位が足りなくて焦りまくってた。おかげで卒業は一年遅れたが、昔からのアイツを知ってる連中達は、卒業すら奇跡的だと思っていたらしい。
経営者の立場になった事によって、今までみたいな気楽な平社員から生活が一変した。東奔西走する毎日。メチャクチャ疲れる。ハードな日常だが心地よい疲れだった。
和哉の才能なのか、徐々に顧客がつき、それなりの人数を雇える様になるまで、さほど時間はいらなかった。仕事が軌道に乗り、やっと余裕が出た頃に、和哉から呑みに誘われた。接待で仕事の酒は毎日の様に浴びていたが、純粋に酒を楽しむのは久々だった。小金も出来たし、それなりの高級店に行く事になった。以前から、取引先の部長さんにイイ店だと薦められていたクラブがあった。女のコのレベルはこの界隈ではトップクラスらしい。俺等はそこに向かった。
[エヴォリューション]
これが店の名前。[進化]とは思い切った名前だな、と思いながら店内へ。
『いらっしゃいませ。本日は2名様で?』
上品なスタイルのボーイが席まで案内する。丁寧だが、どこか機械的におしぼりを渡し、オーダーを取る。
『かしこまりました。少々お待ち下さいませ。』
こんな雰囲気の店で呑むのは初めてなので、いささか緊張気味。ほどなくして、女性が二人、俺等の席についた。
『こんばんは〜』
声を聞いた瞬間、二人は耳を疑った。俺の隣にいるのは愛美だった。
《どうして、どうしてこんなとこに・・・・》
考えるのを止めていた頭の中に彼女の事が一気に溢れだし、洪水となってうねりをあげた。
『お飲物、お作りしますネ。』
そこからの彼女はまさに『仕事』だった。淡々とこなすサービスや、何事もなかったかの様に、笑顔で会話を盛り上げたり。俺も必死になって彼女に付いていった。
《彼女は仕事。俺は客なんだよな・・・・》
そう、心に言い聞かせながら・・・・
はっきり言って呑んでる気がしなかった。それは和哉も同じだった。ほどなくして和哉が言った。
『もう、出るか?』
俺は無言で頷き、二人で席を立った。
『ありがとうございました〜。またいらして下さいね〜。』
最後まで営業用だった。ただひとつ違ったのは、名刺を貰っていない。俺等に付いたもう一人のコは、普通に渡してくれたが、愛美にはそんな素振りは一切なかった。
帰り道、妙な沈黙が俺等を包んだ。それに耐えられなかったのか、不意に和哉が口を開いた。
『あのコ、絶対に愛美ちゃんだよなぁ・・・・』
どう答えてイイのか分からなかった。和哉の言葉が耳に入らないくらい、頭の中では洪水が続いていた。
程なくして、和哉と別れて部屋に戻った。
誰も待っていない部屋。明かりを点けると、仕事の資料だろう。何枚かのファックス用紙がたまっていた。
《ファックスも留守電も明日でイイな・・・・》
俺は上着を脱いだだけで布団に潜り込み、黙って目を閉じた。たとえ、眠くなくても目を閉じたかった。イヤでも彼女の事が頭の中を渦巻いた。考えない様に、考えない様にと思えば思うほど、頭の中を満たしていた。
どれだけ時間が経ったのか。まぶたが重くなりかけた時だった。
…ブルルルッ!
いきなり携帯のバイブが鳴った。仕事の電話だろうか?
『もしもし。』
『・・・・明人?』
愛美の声だった。小さく、か細く、今にも消え入りそうな声だった。
『愛美っ、愛美なんだろっ!今、どこなんだっ!?』
『何で今晩・・・・』
その一言で全て分かった。やっぱり店にいたのは愛美だった。携帯番号を変えないで正解だと思った。しかし、愛美から次の言葉が出ない。
『愛美・・・・何で俺等の前から居なくなったんだよ・・・・?淋しかったんだから。ツラかったんだから・・・・』
俺の口からいきなり核心をつく言葉。愛美からの答えが返ってこない。聞こえるのは、すすり泣く声だけ。処理に困った。俺から言ったにもかかわらずにだ。


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