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画面の中の恋人
【純愛 恋愛小説】

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画面の中の恋人-16

 そして、乃理子は答えを出した。

『名無男さま
 お返事をお待たせしてごめんなさい。どうしてもいい加減な気持ちでお返事したくなかったのです。
 わたし、あなたに会いたい。誕生日を一緒にお祝いしてください。 ミコより』

『ミコさま
 突然困らせるようなことを言って、こちらこそ悪かった。当日は君が好きだと話していたイタリアンレストランを予約しておくよ。待ち合わせ場所と時間はまた連絡する。今週はもう忙しくてあまりメッセージを送れないかもしれないけど、当日会えるのを楽しみにしているよ。 名無男』

 その翌日には、具体的な待ち合わせ場所と時間の連絡がきた。場所は乃理子の家から電車で30分ほどのところにある、有名な時計台の下。誰が言い出したのか、そこで待ち合わせをするカップルは必ず幸せになれるとか。時間は午後6時。チャコールグレイのスーツに濃い赤のネクタイ、それに大きな花束を持っていくからすぐにわかると思う、と書いていた。

 乃理子も当日着て行く予定の服装を伝え、楽しみにしています、と送った。

 31歳の誕生日、わざわざ花束を用意して祝ってくれる名無男のためにも、これをただのデートにしたくは無かった。ひとつの区切りをきちんとつける、新たな旅立ちの日にしようと乃理子は決めていた。

 誕生日の2日前、会社の昼休みに区役所へ出かけた。滅多に来ることがなく、少し戸惑ったが目的のものはすぐに見つかった。家に帰って、ダイニングテーブルにそれを広げる。薄っぺらい紙に緑の枠組みと文字。離婚届。

 こんな紙一枚で夫婦の関係は終わらせることができるのか、と思うと、拍子抜けしそうになる。そういえば婚姻届もこんな紙一枚のことだった。あのときの気持ちは、もう忘れてしまった。

 自分が書くべきところだけしっかりと記入して印鑑を押す。これを、誕生日に名無男と会う前にテーブルの上において出る。おそらく夫は迷わずサインして、この中途半端で面倒くさい関係を終わらせてくれるに違いない。

 印鑑を押すとき、一筋だけ涙が流れた。でも、それはいったいどういう涙なのか、乃理子にもよくわからなかった。


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