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隣に。
【大人 恋愛小説】

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-1

「そうね、もう胎児組織は吸収されてるかもしれない」
 女医は洒落た眼鏡の位置を直しながら、超音波写真を見直す。
「万が一、腹痛があったり、不正出血があったらすぐに病院に来てね。性交渉は、そうだな......もうすぐにでも始めていいと思う」 
 そう医師に告げられ、先日既にセックスをした事を思い出した。
「じゃあ何もなければこのまま病院には来なくていいって事ですか?」
 医師は頷いて「また赤ちゃんが出来た時にお会いしましょ」と言った。
 さっと目を遣った彼女の名札には、東京の有名な大学病院の名前が書いてあった。東京の人なのか。

 少し遠回りして、街中に車を走らせた。
 いつの時代の物か分からない、錆びた看板が張り付いているトタン屋根の小屋や、プロパンガスの大きなタンク、私の運転テクニックでは到底入る事の出来ない細い農道、あちこちにある、小さな墓地。

 四角く区画がされている田んぼには、稲穂が揺れている。もう秋だ。総司の実家は稲作はしていないが、隣近所からお米が貰えるので、米を買う必要はないと、義母が言っていた。
 新米の季節がやってくると、昼間の風も冷たくなってくる。この辺りの秋は短い。
 東京にいた頃は秋が一番好きだった。夏の様に暑くもないし、冬の様に厚着をしなくても良い。一番ファッションに気合が入る季節だ。
 が、この町に来て、私と同じぐらいの年齢の人達が着ている服装があまりにも......ダサイ事に気づき、気合を入れても仕方がないと諦めた。


 ぐるりと回り、引き返そうと思った時だった。遠くに、青山建設の軽トラがハザードランプを点滅させて停められていた。そこは現場ではなさそうで、おそらく民家の前なのだろう。
 私は少し離れた場所に車を寄せ、降りた。軽トラの横にいるのは、総司と、エプロンを掛けた若い女性だった。
 彼女は総司を見上げるようにして笑顔を振りまき、彼も笑っている。そのうち彼の手が彼女の頭に伸び......私はその場を逃げるようにして車に飛び乗り、走り去った。
 軽トラの横をすり抜けるように走った。総司には、気づかれたかもしれない。

 私は必死の形相で家まで辿り着き、広間に倒れ込んだ。
 どうして今まで考え付かなかったんだ。モテたって事は、それだけ関係を持った人間が多かったって事じゃないか。エプロンの女だって、スーパーの娘だって、元彼女かも知れない。総司とセックスをした相手かも知れない。工務店の女だってそうだ。もしかしたら陽子も......。


「俺がそんな男に見えるか!」
 一喝された。今日見た光景を、全て総司に話し、問いただしたのは私だ。
「俺は確かにモテたよ。だからって全ての女を相手にしてきた訳じゃない。そりゃ身体の関係になった相手だって多少はいるけど、だからって全部の女を相手にしたんじゃ身が持たないぐらい、モテたんだ。これは事実だ」
 長い指先で、少し熱いマグカップを持ち、コーヒーを一口飲んだむ総司の顔は、蒸気で少し曇る。
「それに過去だ。エリカが心配する事は何もない」
 私が自分のマグカップにコーヒーを入れてテーブルに置くと、総司は私の好みの量の砂糖を入れてくれる。
「仕事中にああやって、色んな人と会ってるの?」
 私はスプーンでコーヒーをかき混ぜながら、彼の顔色を伺った。総司は少し顔を背けるようにして私から目を逸らした。珍しい事だ。
「偶然家の前を通りかかると、まだこの家に住んでるのか、とか気になるんだ。勿論、女だけじゃない、男もそうだ。立ち話をして帰るだけだ。それに、将来の顧客になるかも知れないんだから」
 そのうち落ち着く、そう言ってコーヒーを飲み干し、二階へ上って行った。風呂に入るのだろう。
 義母は既に寝付いているが、今日は誘って貰えなかった。折角、風呂に入らず帰りを待っていたのに。そう不満を漏らそうかとも思ったが、今日は不満を並べ立ててばかりになるのでやめた。


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