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消しゴム
【青春 恋愛小説】

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-1

 部活を終え、自転車置き場まで部活の仲間とだるまになって歩いた。
 殆どが自転車通学で、学区外から通学している私は電車通学をしている。
「一回戦、二回戦あたりまでは何とか楽勝で行けそうな雰囲気だよねー」
「そうやって余裕こいてると、負けるんだから」
 仲間の油断した言葉に、博美は喝を入れた。夏からのキャプテンは間違いなく博美だ。
「そいじゃ、また明日」
 私はその集団から離れ、駅に向かった。

 目の前に、今日消しゴムを探していたあの背中があった。
「おーい、賢太郎」
 振り向きざまに賢太郎は右手をひらりとあげた。
 賢太郎と私は同じ中学の出身で、学区外通学者であるため、電車で見かける事は時々あったが、こうして帰宅が一緒になる事は珍しい。
 何しろ男バレは、部活後のミーティングが長いから、帰宅時間がかち合わないのだ。
「早いじゃん、ミーティングは?」
「今日先生が休みでさ。珍しく風邪だって。鬼のかく乱ってやつだ」
 賢太郎の隣に並ぶ。やっぱり、照れる。このまま自宅の最寄駅まで一緒に帰る事を考えると、更に照れる。
「お前今日もすげぇの打ってたなぁ。ボカスカ」
 右手首のスナップを利かせて見せた彼に、私は少しむくれた。
「ボカスカって、殴り合いじゃないんだから。あれはトスがいいんだって」
 博美のトス捌きは本当に素晴らしいと思う。打つ人間に合わせて、高さ、位置、タイミングを調整してあげてくる。
「確かに、谷口のトスっていいよな。俺も打ってみたいもん、あいつのトス」
 博美が羨ましかった。セッターとスパイカーのペアはあっても、どうあがいてもスパイカー同士のペアってのは、ない。
「お前、スパイク打つ瞬間、口、開いてんぞ」
 全身の血液が顔に大集合。炎が立つかと思った。そんな所、見られてるとは。
 何か反撃してやりたいとは思うのだが、材料が見当たらない。何しろ惚れているのだから。

「あ、消しゴム、ねぇ消しゴムのおまじないの話って、知ってる?」
 私は強制的に話を変えた。今日賢太郎が焦っていた、この話題に。
「あぁ、何となく周りが話してるから知ってるけど」
 明らかに、先程とテンションが変わった。こいつ、やってるな。
「もしかして、賢太郎も......」
「やってないし。俺、そういうの信じないし」
 それにしては少し顔が赤らんでいるのは気のせいだろうか。いや、気のせいではない。目線が定まっていない。これ程までに狼狽をひけらかすバカがこの世に存在するとは。可愛らしいではないか。
「お前こそやってんだろ、人の事ばっかり攻撃しやがって。女子ってそういうくっだらねぇ事が大好きだもんなー」
「は?やってないし」
 私はカチンと来て、証拠を見せてやろうと鞄から黒いペンケースを出した。
「もうちょっと女らしいペンケースがないのかよ」
「うるさい」
 やり取りをしながら、消しゴムを取り出す。
「見てみろほれ」
 紙のケースから抜き出される事に抵抗する消しゴムを、何とか抜き出した。
「ほら、真っ白で......」
 裏に反したその面には赤いペンで「賢太郎、早希」と書かれている。
 ご丁寧に、ハートマークまで付けて。
「何これ......」
 私は足を止めて消しゴムを見つめた。電車が一本、通過していく音がした。
 賢太郎に視線を遣り「何、これ?」と訊いてしまった。
 賢太郎はぽつりと言った。
「それ、俺んだ......」
 賢太郎は自分の鞄からズタ袋を出し、そこから消しゴムを抜き出した。
「これ、お前んだろ」
 紙ケースから抜き出した消しゴムは、両面とも真っ白なままだった。どちらの消しゴムも、使い始めてそう時間が経っていなかった。
 私は賢太郎から目が離せなかった。
「どうゆう事だい、賢太郎?」
「そういう事だ、早希」
 賢太郎は私が持っていた消しゴムを分捕ると、自分が持っていた消しゴムを私に押し付け、ズタ袋ごと鞄に放ると、その場を足早に離れていった。その後ろ姿に向かって私は叫んだ。
「私も、私も消しゴムに、同じように書いておくから」
 賢太郎は足を止めて振り返った。
「だから一緒に帰ろう。明日も男バレ終わるまで門で待ってるから。一緒に帰ろう。明後日も、その先も」
 意を決して私は賢太郎に近づいた。彼は左手を差し出したので、私は右手を重ねた。

 そこにあるって事に気づかなかった物が、幸せを運んでくる事もあるんだ。


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