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たそがれ天使
【痴漢/痴女 官能小説】

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前編-8

「こっちに来て」

 女は、オレの手をとって奥の扉の前まで連れていくと、バッグから鍵を取り出してロッ
クを解除し、重そうな扉を向こう側へ勢いよく開いた。

「どうぞ、中へ」

 内側に開いた扉の脇に立って、女は、オレを部屋へ招き入れた。一歩中に入って見回す
と、部屋は六畳くらいの広さで、四方をコンクリートの壁に囲まれていた。天井は外の通
路と同じ高さになっていて、蛍光灯を使った照明器具が2本吊り下がっている。どうやら
どこかの店舗の休憩室のようだった。
 向こう側の壁にピッタリ着けて置かれた黒い革張りのソファが目を惹く。4人が並んで
座れるくらいの大きさはあった。同じ材質のスツールが二つと簡素なガラステーブルが、
左側の壁に寄せてソファと直角になるように並べてある。続きの角には小型の冷蔵庫が備
えつけてあり、その前にはダンスのレッスンに使うような巨大な鏡がソファと向かい合わ
せに置かれていた。

「あちらにお掛けください」

 手のひらでソファの方を指して、急に改まった口調で女が言ったが、オレは、どうして
こんなところに連れて来られたのか全く見当もつかず、戸惑いばかりが先に立って、その
場から動くことも返事をすることもできなかった。

「もぉ、またグズグズして。ここまで来たら覚悟を決めなさいよ、まったく!」

 女がまた勝手にわからないことを言って、オレを強制的にソファの真ん中に座らせた。
そして、角に置かれた冷蔵庫までツカツカと歩いて行き、中からミネラルウォーターのボ
トルを2本取り出して戻って来ると、片方をこっちへ差し出して言った。

「これでも飲んで落ち着いたら?」

 自分は慌てているわけじゃなく訳がわからないだけで、まるで落ち着きがないのは女の
方だと思ったが口には出さず、オレは受け取ったボトルの封を開けて水をゴクゴクと音を
立てて飲んだ。女も、口を湿らせる程度の少量を飲んで、右隣に腰を下ろした。

「それ、貸して」

 ミネラルウォーターのボトルを受け取ると、女は両手で腰を浮かせてソファの端まで滑
っていき、テーブルの上に2本とも置いて、また同じようにして元の位置に戻った。女の
身体能力の高さはさっき投げ飛ばされたときに思い知らされていたが、器用なことをする
ヤツだと思った。

「ひと息ついたところで、そろそろ始めましょうか?」
「あの、始めるって何を?」
「何言ってんのよ、決まってるじゃない、アレよ」
「アレって?」
「アレはアレでしょ、何勿体ぶってんのよ、バカじゃないの?」

 ソファに並んで座って交わす会話の内容は未だにまったく噛み合っていなくて、オレは
ますます訳がわからなくなった。
 さっきまで頭の中にあった重たい痺れのようなものは、既に感じなくなっていたが、ど
う反応していいのか言葉がちっとも思い浮かんでこないことに変わりはなく、しばらく黙
っていると、女が、痺れを切らしたように大きな声で怒鳴った。

「あーもぉ、ムカつく! あんたの好みだろうと思ってわざわざこんなダサい格好までし
てきたっていうのに、そんなあたしの苦労も知らずにあんたって人は!!」

 女は、勝手にヒートアップして、今までで一番訳のわからないことを言い放った。頭の
中はスッキリしていたものの、オレの方だって、訳のわからなさでは女と十分に張り合え
るだけのハイな状態だったので、思わず、場違いな感想を心の内に唱えてしまっていた。

(わざわざダサい格好? どうしてだ? 女性の服装の中で、これ以上素敵なものが他に
有るか? いや無い! リクルートスーツこそは、コスチューム美の極致であり、男のロ
マンであり、美しき憧れの対象なのだ!!)

 当たり前だが、そんなオレの心の内の叫びにも全く感知せず、女は、イライラが頂点に
達したような口調で言い放った。

「えーい、もう面倒くさい!!」

 女は、スーツの上着の内ポケットに隠し持っていた小型のスプレーを取り出し、オレの
顔面目がけて霧状の液体を勢いよく噴きつけた。驚いて避けようと顔を背けたが間に合わ
ず、次の瞬間、オレは昏倒してソファの上へ横向きに崩れ落ちた。
                                (後編へつづく)


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