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たそがれ天使
【痴漢/痴女 官能小説】

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前編-5

「キス…してください…」

 一瞬、何を言われたのかわからず、オレは唖然として動けないまま、その場に突っ立っ
ていた。構わず、彼女はオレの腕を掴んだまま身体ごと自分の方へ引き寄せ、もう一度、
今言ったことを繰り返した。

「キス…してください…」

 今度はハッキリとわかった。しかし、また、いきなり何を言い出すのか? さっき本屋
で偶然ぶつかって靴を拾ってあげただけの間柄だろうに? だいいち、まだ、お互いの名
前さえ知らないじゃないか。オレの頭の中は激しく混乱した。

「あの、ここなら誰も見てませんし、見つかったって明かりも暗いから気にする人なんて
いませんよ。ね?」

 ピッタリと身体を寄せて、屈託なく言い放つ彼女の掠れ気味の声が、混乱に拍車をかけ
口に出しても全く意味のない常識的な言葉しか頭に浮かんで来なかった。

「ね? ってキミ、自分で何を言ってんのか、わかってる?」

 そう言われて、何か、オレに見下されたみたいに感じたのか、彼女は、ついさっきとは
うって変わった強い口調で、下から突き上げるように詰め寄ってきた。

「だって、ずっと横目で見てたじゃない! あたしとキスしたいんでしょ、違うの!?」

(気付かれてたのか…)

 ハッキリと図星を指されたこともあるが、まるで別人のような変わり身を見せた彼女の
態度にどう反応していいのかわからずあたふたしてしまい、オレは、さらに混乱した。

「したいも何も、キミとはさっき会ったばかりだろ(そりゃまぁ、したくないわけじゃな
いけど…でも、何でいきなりこうなるの?)」

 オレは、心に思ったこととは裏腹に無難な言葉を返そうとしたが、そんなことでどうに
かなる相手ではなかったようだ。


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