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眩輝(グレア)の中の幻
【大人 恋愛小説】

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常識人の神谷君-2

「もう一杯、用意しようか?」
「いや、もういいや。ありがとう」
 そう言って最後の一口をグイっと飲み干した。融けきらなかった氷がまたカランと音を立てた。
「それだけ課長に惚れてるっていう事だね。よく分かった」
 ぴんぽーんと元気よく部屋に入ってくる神谷久志はなりを潜め、今までに見た事が無いような陰のある顔で俯いたので、私は少し動揺した。いつものやる気のないあの目が、焦点を得ている。
 彼は何かを決意したかの様にすくっと立ち上がり「ごちそうさん」と言い、大きく伸びをした。
「俺はこれからもコーヒーを飲みに来てもいいのかね?」
「あ、うん。それは別にいいよ」
 それでも「姉がいる」と言った家に男を連れ込んでいる事は、課長には知られたくない。
「課長の前では言わないでね、コーヒー飲みに来てる事」
「沢城さんって、秘密ばっかり抱えて生きてるんだな」
 大変だね、そう言われ、返す言葉も無かった。
「ねぇ、今度来た時さぁ、ギター弾かせてよ」
「うん、いいよ」
 おし、帰ろ、とショルダーバッグを手に玄関へ向かった。
 私は見送りに後をついて行った。
「あの、何か、心配っつーか、何だろ、ごめんね。面倒な所見せちゃって」
「沢城さんがわざと見せつけた訳じゃないんだから仕方ないじゃん。ま、とにかく神谷君は常識人なので不倫には反対。以上。ではねー」
 そう言って玄関を出て行った。いつも通りエレベータに乗り込むまで見送ったが、いつもなら一言二言あるのに、この日は無言で背を向けたまま、エレベータホールから消えた。



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