−風の凪ぐ町−-1
ブランコが揺れている。
さっきから、ずっと。
風の凪ぎる時間。夕焼けに燃える空に、大きな月が浮かんでいた。月までもが夕焼けの朱色。そう…ただ僕らはこの町に生まれ落ちた。それだけだった。
生まれ落ちた意味を見つけるには、途方も無く難しくて。意味をつけるには、余りに空虚。
そして、繰り返す風はいつの間にか止んでしまった。
ブランコが揺れた。
公園跡地。根元からポッキリと折れた球体のジャングルジム。プラスチックのベンチは遠い昔、水色だった。焦げ付いて黒く、茶色く…それでも、地面に座るよりまし。
「どうする?」
僕らはここに生まれ落ちただけなのに。それだけしか意味をもてなかったのに。
ブランコが揺れた。
「さぁ?」
もうすぐ、暗さを増す。いつもなら、昨日までなら、公園の外灯が点いていたのに。
「もう一度…探してみようか」
賛成など…無意味で、ただ、不安を増すだけ。そう理解したはず…
「…うん」
無意味なのに…。そんな自分から肯定の言葉。身体、思考、全てバラバラだった。
ブランコはまだ揺れている。
探そう…なのに誰も動き出さない。いや、動き出せない。
目の前に在る世界、いつからか濃い灰色の煙を上げる。もう、どのくらい昔からだろう。いつの間にか風は止んだ。夕焼けに舞い上がる煙がすうっと空を昇り、そして、消えていく。
「頭…使えよ」
頭を伏せ、ふさぎ込んでいた。
ベンチに据わり膝の上の組んだ両手が上下する。顔を伏せずっとしゃべらなかった。
そこからの唐突な挑戦…
的を得ていた。
そう。
もう、僕らは生きてしまった。他にこんな失敗をした人はいない。
きっと…
朝日を見つけた時、僕らは忘れていた。
『今日は最後の日』
しばらく前に町が死ぬ準備を始めた。
こげたベンチ。灰色の絶え間ない煙。
この町が死ぬ最後の日…動く事が出来る全て、全てが止まる。
ブランコがまだ揺れる。
夕焼けが終わる。
「他の町に行こうか…」
夜が辺りを淡く闇に閉ざし始める。朱色の空の奥には、濃紺の空間があることを知っていた。
闇…
僕らの居場所が見あたらない…