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もうひとつの心臓
【大人 恋愛小説】

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32 志保-1

 兎に角必死で走った。
 畳に頭を打ち付けられただけなのに、頭がガンガンするのは何故だろう。首を絞められたことが原因?
 足元もフラフラする。それでも走る。
 明良に下着をはぎ取られてノーパンだったけど、そんな事は気にしていられない。あのままじゃ絞殺されかねなかった。
 走って走って駅を越えて、更に走って辿り着いたマンションのオートロックキーで505を押した。電話の様な呼び出し音が無機質に鳴る。
『はい』
「ハァ、あのっ、あー」
『今開ける』
 ガチャっという金属音がした。開錠されたのだろう。
 横にあるドアを押し開けてエレベータに駆け乗り、5階へ上った。
 玄関の前で鈴宮君が手を挙げていた。
「入って、話はそれから」
 そう言って私の背中を押してくれた。走って温まった身体にも、彼の掌は温かく感じた。

 中に入ると布団が丸めて置いてある、地味な部屋だった。
 後から明良が追ってくる様な感覚を覚え、身体がガタガタ震えた。
「来ると思ってた。首、凄い痕だよ、何された?」
 顔を真横にして鈴宮君は、私の首を覗き込んでいる。
「首、絞められた。殺されるかと思った。そのまま頭打ち付けられて意識が遠のいて、意識が戻ったから言いたい事言ってやったら、犯されそうになって、股間蹴って走ってきた」
 震える肩を両手で押さえてくれた。掌の温かさが肩から染み入る。
 「上着も着れなかったんだ。寒かったでしょ。手もこんなに震えてる」
 今度は手を握りしめてくれた。寒さで震えてるのか、恐怖で震えてるのか、今では分からない。その場にへたり込んだ。
 とりあえず落ち着こうか、お茶でも、と言って鈴宮君は戸棚からグラスを2つ手にして冷蔵庫を覗きこんでいる。
 首をかしげている。何かを探している仕草だった。
「水でもいい?」
「うん、水でいい」
 床に相撲雑誌が置いてある。
「相撲、好きなの?」
「あ、まぁね」
 沈黙。意外な趣味だな、と酷く冷静な自分が思った。

 それより明良だ。あの人は多分、何とかしてここを突き止める筈だ。何とかして住所を――そうだ、年賀状があった。年賀状に書かれた住所でここを突き止めるに違いない。
「ここにいても、すぐに見つかっちゃうと思う。どうしよう、他に逃げた方が――2つ先の駅に友達の家があるんだけど」
「大丈夫、ここにいれば大丈夫だって。オートロックもあるし」
 随分と古臭い事を言ってると思った。オートロックなんて、誰かが開けた隙に入り込むのが常套手段だ。非常口が開いているなんて場合もある。
 鈴宮君は意外と楽天家で相撲好きなのか。
「あとね、私――ノーパンなの」
「それ、今言う事?」
 水を入れたグラスを2つ持って来た鈴宮君が、その足を止めた。
「いや、ちらっと見えた時にそういう趣味だと思われないように。さっき出てくる直前に脱がされたの」
 ぷっと吹き出すのが聞こえた。
 努めて明るく振舞ってくれているのか何なのか、やたらと余裕をかましている鈴宮君が憎たらしい。
「後で俺のボクサーパンツで良ければ貸すから」



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