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キャッチ・アンド・リリース
【大人 恋愛小説】

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6 本塁打-1

 アスファルトを踏むスニーカーの底が溶けてしまうのではないかと思うぐらい、暑い日が続く。本当に暑い。
 教室の窓から見える木々は、申し訳程度に揺れ、風が殆ど吹かない。
 短大の校内は冷房は勿論、扇風機すら無いので、窓を全開にしていてもシャーペンを握る手に汗をかいてしまい、ノートが湿り気を帯びる。

 終了のチャイムと共に「あっぢー」と叫びたくなるのを我慢して、机に蹴りを入れると、逆に机に蹴り返されたように椅子ごとひっくり返った。まるで小学生だ。

 「金曜日、ミキちゃんはどうする?スカルディのライブの後」
 レイちゃんが本日2本目のコーラを手に、教室に戻ってきた。私は打ち付けた背中をさすりながら椅子を起こした。スカート履いてなくて良かった。
 ライブには、私の知らないレイちゃんの友達、シノちゃんが来る。私は人見知りが激しく、人と1日で打ち解け合えるような人間ではないので、おそらくその友達とも二言三言会話を交わして終わりだろう。

 「私はライブが終わった後、ご飯食べがてら飲み屋行って、シノちゃんのアパートに泊まろうと思ってるんだけど」
 脇の下が千切れんばかりに盛大に伸びをしながら丁重にお断りした。
 「うーん、私はいいや。電車があるうちに帰るよ。ご飯だけ一緒に食べようかな」
 「了解。じゃぁシノちゃんにも言っておくね」
 家まで終電があるかどうか――微妙な所だな。
 渋谷から自宅までの間に友達の家でもあれば泊まって帰るんだけど。


 自宅に帰り、渋谷から自宅に帰るには、何時の電車に乗ればいいのかを計算した。ライブが終わってからどさくさに紛れてなかなか会場から出られないというのが常なので、そこも計算に入れて、それからご飯を食べる時間も――うはぁ、時間ない。
 どうしたもんかぁと考えながら、サトルさんからのメールを読み、返事を書いた。
 サトルさんのメールは本当に面白い。長いのに人を飽きさせない。ライトな下ネタを挟んでくる所も、私のツボに入るのだった。

 『近いうちにまた遊びに来ないかい』

 そんな事が書いてあった。ふと、ライブの事を思い返す。
 渋谷からサトルさんの家までなら、確実に電車で帰れる。「遊びに」ではなく「泊りに」だけど――。
 こんな事書いたら、下心丸出しみたいで、嫌われるかな。ビッチ認定されたらどうしよう。
 それでも勇気を振り絞って、書いてみた。ライブの日、泊めてもらえませんか、と。
『襲ったりしませんよ』の一文を添えて。これじゃどっちが男か女か分からないな。




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