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卒業。
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卒業。-1

 桜の花が咲き始める前。まだ、梅が咲いている三月。卒業の季節。全てに別れを告げるとき。

 一歩ずつ、ゆっくりと校門をくぐる。最後の日。

 大切な友達。大好きな後輩。優しかった先生達。その人達と別れなくてはいけない、悲しさ。だって、私はこの町を出るのだから。県外の私立に行くのだから。寮に入ったら本当に、もう、会えなくなってしまう。

後輩達が胸に付ける花を差し出す。その中に、良く知っている子が居た。誰よりも大切な、私にとって妹のような存在だった子。
 笑顔で私を見てくる。
『頑張ってください』たった、一言だけ。それだけ。なのに何でだろう。とても悲しい。…苦しい。
『ありがとう』
やっとの思いで言えた言葉。おかしい程にか擦れていた。

『三年生、入場』
司会の先生の言葉で卒業式は始まった。

歌い慣れた校歌。卒業式の定番の曲、『蛍の光』に『仰げば尊し』。

『仰げば尊し』ー私は、この歌詞の中で思うことがあったんだ、
『思えばいととし』の部分。『愛とし』とずっと思っていた。けれど、違ったんだよね。
私としては、『愛しい』という意味の方が好きなのだけれど。

『卒業証書、授与』
淡々とした声が体育館中に広がった。
『3年1組1番―――――。』

ー始まった。

ふうっ、と息を付く。ほんの数秒、前に居るだけなのだけれど。やはり緊張はしてしまう。

『3年5組――…』
私の組が呼ばれた。とくとくと心臓が激しく上下する。
『7番――…』
私の前の人が呼ばれ、私はステージへと上がる。次は私の番だ。
ふと、二年生の席を見た。

ーあの子はどうしているだろうか。

 微かに目を細めて見る。

ー……見付けた。

真っ赤に目が腫れていた。まるで、兎のよう。愛しさが混み上げてきた。
私が二年生になった時からずっと、側にいた少女。私を姉のように慕ってくれた。同じ部活に入りたいと、顔を真っ赤にしてうつ向いていた光景は、今でも鮮明に思い出される。
姉妹が居なかった私にとって、どんなに大切な存在だっただろう。悩みを相談されたり、相談したり…。全てが愛しい思い出。そして、それももうお別れ。
 私は、もう会うこともあまり無いであろう少女を見つめた。

ー泣くのが早いよ。

ふっ…と笑みが溢れた。まだ卒業証書も貰ってないというのに。

『八番、乍 唯(ながらゆい)』
 私の名前を担任の先生が呼ぶ。少し緊張しながらも息を吸った。
『はい』
思っていたよりも、はっきりと声が出て嬉しい。その顔のまま、歩き出す。更に赤くなった少女の顔を見た後に。
『頑張りなさい』
校長先生が証書を渡す時、優しく話しかけてきた。その言葉を、私は笑顔で返す。
『九番――――。』
授与はまだまだ続く。残り三クラスも有るのだから。


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