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富子幻舞
【歴史物 官能小説】

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富子幻舞-33

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“―――様、・・・・様”


「・・・・ん・・・・・」



“・・・御台所様、御台所様!!”



「・・・ここは・・・・・」


「良かった・・・お目覚めになられましたか」



目を開けた富子の前で大きく安堵の息を吐く供回りの侍女や賀茂右近ら側近達。

今だ頭の中がぼんやりとしている状態で、富子はうつろな目付きのまま周囲と自分の状況を確認する。

辺りは既に夕暮れ、太陽は半分以上西に沈んでいる。

空気は昼間以上に冷たくなっており、北山一帯にも夜の帳が降りようとしていた。


富子は能舞台の傍らに立っている大きな桜の老木の根本に背を預けた状態だった。

自分を抱き締めてくれた勝元の姿はどこにもない。


「お戻りが遅かったので、もしやと思いましたが・・・・・ご無事でようございました」



「・・・この辺りで」



「はい?」



「他に誰か・・・姿を見ていない?」



「いえ・・・御台所様以外に人の姿は見ておりませんでしたが」



「そう・・・・・」




互いに顔を見合わせ首をかしげる供回り達を尻目に、富子は両手で自分自身の身体を抱き締める。


そこには強い力で“抱き締められた”感触が確かに残っていた。

その温かさはもののけの類いではない。人間のものだった。




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