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氷炎の舞踏曲
【ファンタジー 官能小説】

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東の女性についての記述-1


 一方でヘルマンとしても、雇用主として最低限の礼節は守っても、それ以上にカダムへ敬意を表す気にはなれなかった。
 そもそも、ここに来たのは錬金術ギルドの勅命だからであって、カダムの人柄にほれ込んだわけではないのだから。
 立場としては、ヘルマンは幹部ではなく、いっかいの『その他大勢』な錬金術師にすぎない。
 うっかり幹部などになって、くだらない権力あらそいに巻きこまれるより、ただの下っ端会員のほうが、よほど気楽でいい。というのが彼の考えだ。
 しかし、どんな立場にも代償はつきものだ。
 時にはこうやって、異国の乗っ取りを手伝えなど、たいそうコキ使われる事もある。
 それこそ今回の仕事は、ヘルマンの嫌いな『権力争い』そのものだったが、大人しく仕事をこなすのは、自分でその立場を選んだ事への、彼なりのけじめだった。
 とくに今回は、仕事内容もさることながら、雇用主にも品性がまったく見られず、かなりがっかりした。
 黒い口ひげを生やした雇用主を見るたびに、金メッキ、という単語が頭に浮かぶ。
カダムは一大臣としてなら、それなりの手腕を持っていたし、体裁をつくろうのも上手い。自身や持ち物にも、金をたっぷりかけているだけあり、見た目もそこそこ悪くない。
広い肩幅と長身を豪華な衣服に包み、堂々と風をきって歩く。その威圧感と傲慢さを男らしさと勘違いし、惹かれる女も少なくない。
 ただ豪華なのは外見だけで、プライドがやたらに高く、陰湿で嫉妬深い男だった。
 表でそれを押さえている分、影で当り散らす様は、醜いにも程がある。
 それからすれば、現シシリーナ国王は、カダムよりよほど好感をもてる人柄だった。
 しかし、好感度と仕事は別の話だ。
 ヘルマンはとくに迷うことなく、着々とギルドから命じられた任務の遂行にいそしんだ。
 誰かに好感や不快を感じるくらいはあっても、結局のところ、他人なんかどうだっていいのだ。
 他人の事など、ヘルマンには何の影響もない。
 またその逆もしかりで、ヘルマンがどんな目に合おうと、誰も影響は受けないだろう。
 誰にも期待はしてない。
 だから、嫌いな相手からどんなに無礼な事をされても、彼は怒らなかったし、好感をもつ相手がどんな悲劇に見舞われようと、悲しみもしなかった。
 そうやって、ずっと生きていたのだから、これからもきっとそうだ。
 特に支障は無かった。
 いつもこの一言で片付く。
 どうだっていい。

 ヘルマンの作った兵器も、立てた戦術も優秀で、結果的にカダムは、シシリーナ王都をなんなく掌握した。
 ヘルマンは決して表には出ず、戦の指揮は、全てカダムを通じて他の将軍達に伝えられた。
 非常に効率的で、迅速で、容赦のない、猛吹雪のような徹底した攻撃の嵐だった。
 シシリーナ国王の親衛隊は、決して無能ではない。
 だが、彼らは能力を十分に発揮する間を与えられないまま、陣形を引き裂かれ、不利な体制に追い込まれ、彼らよりはるかに格下であったはずの雑兵たちの手で皆殺しにされた。

 戦の一番難しい部分を終えた頃、ヘルマンの元に、突然カダムが戻ってきた。
 後につづき、兵士達が重傷の女性を担いで運んでいる。
 意識のない顔は苦痛に歪んでいたが、とても美しい女性だった。まだそこそこ若い目鼻立ちの整った顔だちは、庇護欲をそそるような愛らしい作りというよりは、凛々しさを感じさせるものだった。
 見事な白銀の髪で、東の島からの移民と、すぐわかる。
 今では貿易や移民も盛んになった『東の国』だが、三百年ほど前までは、存在すら知られていなかった島国だ。
 長い間大陸から隔離されていたせいで、『東の民』と呼ばれるかの国民は、まったく独自の文化と、統一された容姿を保っていた。
 全員が白銀の髪と、ルビーのような赤い瞳をしている。
 ただの銀髪なら他の国にもいるが、ここまで美しい白銀は、東の民以外にはありえない。
 彼女の背中の傷は肺まで深く達していて、もう手遅れだった。
 どんなに手をつくしても、あと一時間と生きていないだろう。
 ヘルマンはそう、カダムへ告げた。
「もともと生かすつもりはない。この女から、ホムンクルスを作れ。」
「はぁ?」
「ホムンクルスは鍛え上げ、いずれ俺の護衛を勤めさせる。その教育もお前の仕事だ。」
「はぁぁ?」
 次々に言われる突拍子も無い言葉に、ヘルマンは眉をひそめた。
『ホムンクルス』は、大昔の錬金術師たちが開発した、人工生命だった。
 生きた人間に特別な薬を投与すると、その相手は死ぬが、半年後には容姿も才能も全て受け継いだ子どもが生まれる。それがホムンクルスだ。
 あまり大っぴらに言える作り方でもないから、もちろん機密事項である。
 カダムがそれを知っているのは、錬金術ギルドの幹部の一人が、何かの折に口を滑らせたせいだった。
 なぜかカダムは、その話にとても興味をもち、その幹部にしつこく色々と聞いたらしい。


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