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あやなくもへだてけるかな夜をかさね
【その他 官能小説】

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あやなくもへだてけるかな夜をかさね-3

「お母さん、明日体操服いるからね」
「わかったわ。出しておくから自分でちゃんとカバンに入れるのよ」
「はぁ〜い」
「あ、俺明日遅ぇーから」
「何よ?なんかあるの?」
「うん、委員会」
「そう」
「お兄ちゃん、テレビ見ていい?」
「いいよ、俺パソコンいじっから」
「先に宿題済ませなさいよ」
「へいへ〜い」

夕食を済ませ、子供たちと言葉を交わしながらテーブルを片づける。
夫の分の食器と料理を一カ所にまとめる。
(今日も遅いのかしら…)
夫が子供たちと一緒に夕食を取れるのは、休日くらいのものだ。
まあ、子供たちも夕食の席に父親が居ない事に馴れてしまったのか、不在を気にする様子も見せないのだが。
時計は19時を半分ほど回ったところだ、いつもと同じなら後1時間半は帰らない。
茶碗を洗いながら子供たちを見守る。
「美樹ちゃん、早くお風呂に入っちゃいなさい」
「え〜、これ終わるまで待ってよ〜」
「終わったらすぐ入るのよ」
「わかった〜」
テレビに夢中の娘。
最近はアニメ番組よりアイドルが出るバラエティ番組を見るようになった。
…知らないうちに大きくなったのね…
娘が成長した分、自分は年を取ったのか。
宿題を終え、息子がパソコンの前に座る。
馴れた手つきでパスワードを入力すると、画面が明るく賑やかに騒ぎだした。
…何見てるのかしら?…
夫の世界は気にならなくても、息子の世界は気になるのだ。
息子は、日課ともなったアイドルの公式ウェブサイトに繋いでいるようだった。
智子は口元を緩め、子供たちを眺めた。
二人共、ずば抜けて優等生と言うわけでは無いが、曲がる事も無く素直に育っている。
体も健康で、めったに風邪もひかず元気だ。
親としてこれ以上望む事などあろうか?
真面目な夫、健康で素直な子供。
「文句なんて言ったらバチが当たるわね…」
自分自身に言い聞かせるように小さく呟いた。
他人が見たら何の不満も無い幸せな生活。
それなのに…智子の心は、しっかりと閉まった窓のどこからか入り込むすきま風のような、微かな冷風を感じているのだった。

「ただいま」
夫の帰宅。
娘も息子も、自室に行ってしまっている。
「おかえりなさい」
智子は、味噌汁が入った鍋に細く火をかける。
「ふぁ〜あ」
欠伸とも溜め息ともつかぬ声をあげて、スーツの上着を脱ぎネクタイを外す夫。
「お疲れ様、すぐご飯でいい?」
「ああ、腹減ったよ」
冷蔵庫から缶ビールを取り出し手渡した。
“プシュッ”
小気味いい音をたて缶を開けると、缶に直接口をつけ“ゴクリ”と喉を鳴らす。
「グラスに入れたら?」
「ああ」
「おかず温める?」
「ああ」
会話のようで会話にならない会話。
もう馴れた事とは言っても、今夜は少し寂しさを感じた。
「私も飲もうかな?」
「ああ」
智子は、新しく缶ビールを取り出すと夫と向かい合う位置に座る。
「ゴールデンウィーク、今年はどうなの?」
休みは取れるのか?と言う意味だ。
「うーん、連続しては無理だな。現場が押してるんだ」
「…そう」
「父と母がね…美樹と祐樹に会いたいんだって」
「ふぅ〜ん」
「最近行ってないもんね、向こうの家」
「そうだな」
「ま、仕事なら仕方ないね」
「悪いな」
“コポコポコポ”
智子は自分のグラスにビールを注ぐと、一口に飲み干した。


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