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「カオル」
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last-2

「──お姉さんって、休みの日は何してるの?」
「えと、買い物とか図書館……だと思います。僕も居ないから」

 お喋りの間中、薫への観察を続けていたひとみに、“確信的といえる仮説”が閃いた。

(試してみようかな……)

 心の奥底に、抑え難い邪な考えが涌いた。

「そういえば、薫くんの家系って綺麗な人が多いの?」
「えっ?」
「この間の日曜日にね。薫くんと同じ位、綺麗な女の子がお姉さんと歩いていたのよ」

 薫は言葉を失った。
 女装して姉とコンビニを往来したあの日。見ていた者が目の前に座っているのだ。

「だいじょうぶ?」

 ひとみは身を乗り出し、薫の首筋に手を伸ばした。
 ひやりとした感触が、下顎から耳のラインを流れていく──心の中が畏れ戦いた。

「……あ、やあ……」
「その子はね、あなたと背格好と顔立ちがそっくりだったわ……」

 獲物を捉えるような眼が、薫の面前に迫る。

「その子の名前は藤木薫子……不思議ね。あなたと一文字しか違わない」

 ──知られてしまった!
 細やかな秘密が、ついに、他人にまで広がってしまった。

(お姉ちゃん……)

 薫は心の中で、姉に助けを呼んでいた。





「ただいまァ!薫ッ」

 須美江と真由美が買い物から戻ると、リビングに居るはずの薫の姿がない。

「まったく!多分、昼寝だよ。留守番にもなりゃしないんだから」
「今日は朝早かったから。寝かしといてあげなさい」
「お母さんは薫に甘過ぎよ!少しは勉強やらせないと、来年、中学に入ってから泣くわよ」

 母娘の小競り合いが繰り広げられていた時、薫は自室に隠っていた──眠ってなどいない。

 絶望の淵に立たされていた。
 全てを見抜いたひとみは一足早く帰って行った。
 帰り際、耳許で「また来るから」とだけ囁いて。
 その声を聞いた時、背中に悪寒のようなモノが疾った。
 薫は唯、ベッドの中で震えるしかなかった。夢であって欲しいと願って。

 薫は思った。あの人は必ず会いに来る。
 女の子になって見せろと迫ってくる。一緒に外を歩けと言われるかも知れない。

(そしたら、みんなの迷惑になる……)

 小さな胸に抉るような痛みが疾った。
 自分のせいで、姉や両親、そして、島村直樹を含む仲間逹へと迷惑が及んでしまう。
 薫はこの時、心の底から自分の性を悔やんだ。



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