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【エッセイ/詩 恋愛小説】

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キミへ-1

「キミへ」

あの日、キミが待つ家に戻れなくなってしまったこと。
今でも申し訳ないと思っているよ。
キミがこの街を出て行く後ろ姿。
背中を丸めたキミがいつもよりさらに小さく見えたこと、今でも覚えているよ。

この前、10数年ぶりにこの街に戻ってきたキミを見かけた。
あんまり変わってなくてうれしかったよ。
しゃんとした背中があの頃のキミのようでホッとしたよ。
少し強くなったんじゃないか?
隣で穏やかに笑う男、どことなくオレに似てないか?
オレのほうが男前だと言ったらキミはあの頃と同じように笑ってくれるだろうか。
でも。いい人がキミを見つけてくれて本当によかった。
キミはオレに悪いとか言い出しかねないから。

もうすぐお母さんになるんだね。
ずっと夢だったんだもんな。
あの頃叶えてやれなくてゴメン。
でも結果的にはよかったんじゃないだろうかと思うよ。
こうなってしまったことを思うとね。
キミひとりに押し付けることになってしまっただろうから。

惣菜のうまい肉屋のばあちゃん、
今でも時々あの場所に来ては手を合わせてくれるんだ。
ありがたいと思ってる。
時々こっちで肉屋のじいちゃんと店の惣菜つまみにして一緒に呑んでるよ。
唐揚げは今でも絶品だよな。
でも今はあんまり食べ過ぎるなよ。
キミひとりの身体じゃないんだから。
あの公園で花見もしたよ。桜の木の枝に肉屋のじいちゃんと並んで腰掛けてね。
そう、キミが見上げていたあの木の上から
花見してるキミを見ていたよ。
今年は寒かったから咲くのは遅かったし、散るのは早かったな。
短くなったキミの髪にふわりと落ちた花びら、綺麗だったな。

正直他の男にキミを取られたのはシャクだけれど。
キミには幸せになって欲しいんだ。
彼ならきっと大丈夫。
キミを悲しませたり泣かせたりしないだろう。
オレがずっとキミと彼を、そして生まれてくるキミたちの子供を守り続ける。
あの頃できなかった分、全身全霊でキミたち家族を守るよ。
だから、安心して。ずっと見守っているから。


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