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手紙
【エッセイ/詩 恋愛小説】

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あなたへ-1

「あなたへ」

あれから随分月日は流れてしまったというのに。
今でも私はふとしたときに、あなたのことを思い出してしまうの。

あなたと一緒に通ったカフェの前を通り過ぎるとき。
あなたに似た後ろ姿を地下鉄のホームで見かけたとき。
あなたが好きだった曲がたまたま入ったお店の有線で流れてきたとき。
あなたが美味しいと言ってくれたきんぴらごぼうを作っているとき。
あなたが乗っていたのと同じ車を街で見かけたとき。
同じナンバーなわけなんてないのに、ついつい確認しちゃう。

…ねぇ、バカみたい、って笑う?

あなたと毎年見に行った公園の桜、今年も見事だったよ。
あなたがよく酔いつぶれてた居酒屋さんはなくなっちゃった。
あなたと手を繋いで借りに行ったレンタルビデオ屋さんも今はもうないの。
あなたがお気に入りだったお惣菜が美味しいお肉屋さんのおばあちゃまは今もご健在よ。
この間ね、10数年ぶりに買い物に行ったの。
おばあちゃま、私のこと覚えててくれていたわ。
もちろん、あなたのことも。あの事故のことも。

…ねぇ、そんなこと全部知ってる、って笑う?

あの日、あなたが突然消えてしまって。
世界が終わったのと同じだと思っていたの。
毎日毎晩泣き暮らしてあなたと同じように消えてしまいたいとさえ思っていたわ。
でも、そうすることさえできずにこの街を出たの。
もう2度と戻ることはないって思ってた。

でも。皮肉なものね。
私はまたこの街に戻ってきた。
もう2度と恋なんてしない、なんて思っていたのに大切な人を見つけて。
あなたに縁もゆかりもない土地で恋に落ちたのに
夫の転勤先がこっちで、社宅がこの街って聞いたときはものすごく動揺したわ。

今は戻ってきてよかったと思ってる。
月日が流れてようやくあなたともあの頃の自分とも向き合える気がする。
あの頃どんなに望んでも手に入れることができなかった希望が
今、私のお腹の中に宿っているの。

…ねぇ、おめでとう、って笑ってくれる?

もうすぐあの日が来るね。
まだあの場所には足を運べていないの。
でも今年はちゃんと会いに行くから。

だから。

…ねぇ、これからも空から私を見守っていて…


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