投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 499 やっぱすっきゃねん! 501 やっぱすっきゃねん!の最後へ

やっぱすっきゃねん!VR-5

「プレイ!」

 試合が再開した。
 森尾は打席のいちばん後ろ、ベースから少し離れた位置に立った。
 キャッチャーは内角対策だと思い、外角低めを要求する。
 ピッチャーは、サインに頷いて初球を投げた。
 ボールは、構えたミットからやや外れた。

 森尾は、初球を見送ってから、ピッチャーの方に目をやった。
 明らかに球威は落ちている。ピッチャーの下半身も、踏ん張りが利かなくなっていた。

(次は狙ってみるか)

 森尾は、狙い球を待った。
 それから、カウントが2ボール1ストライクになった4球目、再び外角低めの真っ直ぐがきた。

「き、きた!」

 打席の前へと移動しながら、バントのようにバットに当てた。
 力のないゴロが、ピッチャーの右に転がった。
 ファーストは前に突っ込んでくる。同時に、ピッチャーが1塁へと駆け出した。

「ハッ!ハッ!ハッ!」

 ランナーとピッチャーが、競い合って1塁を目指す。
 ファーストはボールを捕ると、疾走するピッチャーのグラブ辺りに下投げで送球した。

 ピッチャーはボールを受け取り、ベースまでの残りを必死に走しる。
 しかし、森尾の足が一瞬早くベースを駆け抜けた。

 これでまた、得点圏にランナーを進めてしまった。
 おまけに、打順はトップを迎えた。

 今のプレイで、大谷西中のピッチャーの心は折れた。
 1番の乾を迎えたが、1球のストライクも取れずに歩かせてしまった。
 ここで、大谷西中ベンチから伝令が出た。ピッチャー交代が告げられた。

 この回、結局、青葉中はもう1点追加することとなった。
 永井の采配によってもたらされたと言っても過言でない。

 だが、当の本人は喜んでいなかった。
 大会の2回戦以降、チャンスを掴んでも得点に結びつかないケースが多々あった。
 相手も強豪揃いだから接戦になると踏んでいたが、これほど苦しい展開が続くとは予想だにしなかった。

(こんな調子じゃ…)

 永井の脳裏に、先日見た沖浜中の試合が浮かんだ。もし、今日を勝てたとしても、貧打にあえぐ今のチーム状態では、明日の結果は見るまでもないだろうと。
 一応、対沖浜中の対策は考えはしたが所詮は付け焼き刃だ。 果たして、上手くいくのかはクエスチョンマークだ。

「どうかされましたか?」

 ひとり、考えを廻らせる永井に葛城が声をかけた。黙した様が気になったのだろう。
 我に還った永井の心に、恥ずかしさがこみ上げた。

(目の前を疎かにするとは……いかんな)

 指揮官としての自分の資質を自問した。

「いや、何でもないです」

 心境を悟られまいと、笑みを向けた。それを見た葛城は、訝かしがるが、

「だったらいいんですが」

 それ以上は質さず、試合に集中した。


やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 499 やっぱすっきゃねん! 501 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前