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春の嵐
【OL/お姉さん 官能小説】

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春の嵐-2

そう、思えば彼女と言葉を交わした事さえないのだ。
落とし物を持ち主に返すだけの話ではないか…

浩一はただ単純にそう考えた。
彼にとって、この舞い込んだ布切れ一枚が特別な意味を含むようにこの布切れの持ち主にも特別な意味がある事などすっかり度外視してしまっていた。

もう、美人に声をかけるきっかけができた事しか念頭になかったのだ。

「いくらなんでもこのまま返すというわけにはいかないだろうな。」

浩一は浴室にそれを持ち運び、下着を洗う。
女の下着…それも普及品とは言えないものは実に複雑にできていて、隅々にまで入り込んだ砂粒をくまなく洗う。

そこでよく見ると、裏側の生地が分厚く重ねられた部分には微かな染みが縦筋に一本ついてる事に気がついた。
あの人に返すのだから、綺麗に洗い落とさなければ…

その染みは一度ついてしまうと、そう簡単に落ちてしまう物ではないのが世の常なのだ。

とにかく浩一は下着を洗った。
洗濯洗剤など、コインランドリーでは自動的に散布されるから持ち合わせはない。
小さな汚れものであれば普通の石鹸を使う。

ゴシゴシ使う。

そして洗濯が終わるとシャワーのフックに引っ掛けて干した。

「待てよ…」

以前、雨に濡れたTシャツを面倒だからこうして干しておいた事があった。

臭くなったのだ。

仕方ない。
もう夜の事だし、人目にはつきにくいだろうとハンガーに掛けてベランダの防護策に引っ掛けておいた。

… … … …

浩一が例の下着を取り込んだのは夕方帰宅してからの事だった。

太陽の光りにあてて、ふっくらと乾かして返したかったのと、防護策からわずかにひらひら見える赤い布切れが女性の下着であろうと通行人には推測しかねないと思ったからだ。
取り込んだ下着を丁寧に畳んで、その際ちょっと罪悪感に似たものを覚えはしたけれど太陽の匂いがするか嗅いでみた。

しまった…こんな事なら洗濯してしまう前にあの人の匂いを確かめておくべきだった。

匂いもなにも、元々洗濯してあったものが舞い込んだだけの事なのだ。


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