投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

春の嵐
【OL/お姉さん 官能小説】

春の嵐の最初へ 春の嵐 0 春の嵐 2 春の嵐の最後へ

春の嵐-1

カーテンを開けてみた東京の空は気持ちよく晴れ渡り、やわらかな春の日射しに包まれていた。

春の嵐というものだろうか?
昨日は凄まじい強風でせっかくほころび始めた桜も落ちてしまったのではないかと狭いベランダに踏み出せば、眼下に見える公園には薄桃色のやさしい光景が目に入った。

そうか…まだ咲く前だったもの、なんとか耐え抜いてくれたんだ。

浩一はこの桜を見るたびに故郷の鹿児島を思い出し、東京で暮らしてきた年月を数えるのであった。
桜など、どこの土地にでも咲いているものではあるけれど…

鹿児島の桜はきっともう、満開に咲きほこっている事だろう。

桜が見える浩一の住む部屋のベランダには何もない。
洗濯機さえないからランドリーでまとめて洗濯を済ませ、当然それをここに干す事もない。
あるといえば一足のゴムサンダルと室外機のみだった。

東京の桜は遅かった。
南の先端に位置する鹿児島に比べれば、それもあたり前の話ではあるけれど、桜というのは人知れず咲く時期を知っているのかも知れない。

昨日の嵐に咲いていれば、きっと丸裸にされていた事だろう。
薄桃色の桜の花に故郷を感じる浩一にはきっとそれが偶然でないように思えたのだった。

ふと見ると、ベランダの排水溝に赤い布切れがひっかかっている。
雨に濡れ、舞い上がった砂埃にまみれたそれを手に取ると浩一はあわててそれを手の中に隠し、周りの人目を確認した。

熟れたトマトのように赤い女の下着…
浩一の住むマンションは6階建てで、浩一の部屋が5階。
1Kの狭い部屋で階上に住む女性といえばひとりしか心当たりがなかったのだ。

それにここは高台で隣接する高い建物もこちら側には見当たらない。

たしか井関という名前が集合ポストに貼ってあった。
夫婦なのか同棲する彼女なのか内情は知らないが艶やかな黒髪のとびきりな美人が住んでいたのだ。

とにかく…
浩一はそれを拾い上げると部屋の中に持ち込んで、そのまま出勤の支度を慌ただしく始めるのだった。

… … … …

ひとり帰宅した浩一を待っていたのは今朝拾い上げた濡れた下着。
女の下着とは不思議なもので触り心地が綿のように柔らかく、それにこんなに小さいのにちゃんとお尻が入るのだ。

これがここにある事など、持ち主は知る由もなく浩一は砂にまみれた下着を手にしげしげと観察する。

やっぱり、あの人に返すべきなんだろう。
浩一はそう思ったものの、その女というのはたいそうな美人であった。

たいそうな美人ではあるけれど、どこか空かしていて好感が持てるタイプではなかった。
ひとり寝がごく普通な浩一たちのような男たちとできるならば関わりたくないと言ったような感じがある。

それはそんな美人に釣り合わない浩一の持つ劣等感なのかも知れない。
あるいはあの部屋の主である井関という男から過剰なまでの警戒を促されているのかも知れない。

井関と名乗る人物も浩一から見たところではそうハンサムでもなければ、同じ1K暮らしの経済力に過ぎないようにも思えたのだ。

つまりは浩一が顔見知りの美人から嫌われる謂れもなかったという事だった。


春の嵐の最初へ 春の嵐 0 春の嵐 2 春の嵐の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前