やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑱-6
「今日は、やけに余裕だな？」
そこに直也が現れた。何か一言ありそうな顔だ。
「なんで、３ついったんだ？」
どうやら、３番バッターへの配球が気になったらしい。
そんな直也を達也は一瞥すると、したり顔になった。
「おまえが、そう考えてんなら成功だな」
「どういう意味だ？教えろよ」
得意気な言動。直也は、解らない悔しさから再三聞き出そうとするが、達也は「試合に勝ったら教えてやる」と、ごまかす始末。
「なんで勝ったらなんだよ！？」
それでも、めげずに訊こうとしたところ、
「そんなことより、試合に集中しろ」
とうとう、たしなめられてしまった。
「わかったよ…」
直也にすれば、恨みごとのひとつも言ってやりたいのだが、そこをグッと抑えて達也に従った。
青葉中の攻撃。先頭の乾が打席に入った。
大谷西中の先発は、先ほどの３番バッター。その長身から投げる球は、なかなか打ち崩せないとデータがある。
乾は、やや下がって構える。
ピッチャーは、胸の前で両腕を構えると、クイックな投球動作から初球を投じた。
風切り音と共に、かん高いミット音が耳に入った。
（重そうだな…）
ねじりもタメもない。外国人投手のような、上体まかせの投げ方なのに速くて重い。
乾は、いっぱいに握っていたグリップを少し余らせた。
２球目は低めに外れて２ボール。
（次は、ストライクを取りにくる。ベンチから待てのサインもない）
狙いはストレート。乾は、力負けしないよう、グリップに力をこめた。
ピッチャーが左足を上げると同時に背中を丸めた。
縮こまった体勢から一気に身体を大きく広げ、右腕を強く振った。
甘いコースに速球がきた。
乾は、コンパクトな振りでボールにバットをぶつけにいった。
カィン！──
鈍い音と共に、力ない打球がバックネットに飛んだ。
打った乾は、顔をしかめている。
（なんて球だ。捉えた瞬間、押し戻すなんて）
しびれた左の掌をさすりながら、先日のミーティングの出来事が頭に浮かんだ。
（先頭バッターの役割か…）
何か考え得るものがあったのだろう、再びバットを構える身体から力みが消えた。
その変化を、相手キャッチャーは見逃さない。自分なりの分析で配球を組み立てる。
ピッチャーはサインに頷くと、４球目を投じた。
ボールを追う乾の視線が上がった。前の３球と明らかに違う、高さの投球。
（カーブ…）
ボールは大きな弧を描き、外から回り込むと、内角の低めまで落ちた。