投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 481 やっぱすっきゃねん! 483 やっぱすっきゃねん!の最後へ

やっぱすっきゃねん!VQ-5

「気にすんな。今日のおまえなら、間違いないさ」

 むしろ直也をなだめている。“ピッチャーに気持ちよく投げさせる”という、キャッチャー本来の仕事を優先した。

「ツーアウト!バッター3番よ」

 達也の声が放たれた。野手逹は、グラブを上げて応える。
 大谷西中でも要注意の1人。4割以上の得点圏打率が、危険さを物語っている。

 左打席に構えた様は、長身で懐が深い。一見すると内角低めが苦手に思われるが、

(ここをホームランしたんだったな)

 典型的なローボール、ヒッター。しかし、得意なコースにこそ落とし穴がある。

(いってみるか)

 初球のサイン。覗き込んだ直也の目が、驚きに変わった。

(大丈夫かよ…)

 直也は、頷くと振りかぶった。人差し指と中指が、ボールをはさむ。
 ストレートと同じフォーム。違いは投げる瞬間、スナップを利かせないこと。

 バッターは、ストレートのタイミングでステップした。
 投じられたボールは内角低め。狙いすましてバットを振った。
 だが、ボールはバットの軌道をすり抜けるように落ち、達也のミットに吸い込まれた。

 見事なスプリットボール。

 2球目も同じボールを投げると、バッターは途中でバットを止めた。

「スイング!」

 これで2ストライク。追い込まれ、次の配球を絞りきれない焦りか、打席を外す余裕もない。

(遊びはなしだ…)

 達也は、3球目のサインを出した。


 直也は小さく頷く。
 両腕を高く上げて振りかぶると、投球動作に入った。

 バッターは、右足をわずかに引いて小さくタイミングを計る。

 左足の踵が、マウンドの窪みを踏んだ。直也は、すべての力をボールに込めて、右腕を振り抜いた。

 バッターは右足を前に、バットを後ろに引くことで、ねじりによる力を生んだ。
 コースは内角低め。バッターにとっての絶好球。当然、打つはずだった。

「ストライク、スリー!」

 しかし、躊躇いがバットを止めてしまった。

「ヨシッ!」

 その瞬間、達也が拳を握ってガッツポーズをみせた。その姿に、いつもの冷静さはない。

 立ち上がりを0点に抑え、青葉中の選手逹は、意気揚々とベンチに戻ってきた。
 プロテクターを外す達也の口元にも、笑みがこぼれている。


やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 481 やっぱすっきゃねん! 483 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前