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青の記憶 hopeless world
【SF その他小説】

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青の記憶 hopeless world-4

「お前はこれで良かったのか?」
私におんぶされた菊池は、息も絶え絶え言葉を吐く。
「お前は、まだ生きられる体だろう。妻や娘だっている。こんな老人の世迷言に命を放り投げて良いのか?」
「あぁ、私も、もう十分だよ。お前だって分かるだろう。五十年だ、五十年。私たちは夢を見続けてきた。果てなく叶うことの無い、希望と絶望の入り混じった夢だ。」
「五十年かぁ・・・。」
そう言うと、彼は何かを考えているように押し黙った。
「おい、真一?」
「あぁ、・・・大丈夫だよ。外界を・・見るまで死にはしないさ。」
途切れ途切れに。
言葉も、視界も、意識も、思い出も、全てをコマ送りのように菊池は感じていた。
五十年 ――― それは気の遠くなるような日々だった。全てを忘れそうで、しかし全てを忘れることは出来なかった。とりわけ自分の生に課された使命を。けれどもう良いのだろう。私たちの子供は、地上の素晴らしさを知り、更に伝え続けていくに違いない。

長い長い廊下は果て、エレベーターに辿り着いた。中に乗り込み、地上へのスイッチを押す。
「真一、もうすぐだぞ。」
「・・・・・」
「真一?」
返答は無い。
急に背中越しの気配が無くなる。
途端、足腰が震え、エレベーターの床に尻餅をついた。
「うそだろ?」
描き続けた夢は、すぐそこにあるというのに。
手を伸ばさずとも届くのに、菊池はもう目を開けることさえ。
「おい、おい!!」
肩を揺らす。乱暴に親友を呼び続ける。
「ふざけるな!ここまで来たんだ。私を一人にするな!」
涙が落ちる。
だってそうだろう?
閉じられた空間を否定し続けた彼は、更に狭いエレベーターの中で生涯を閉じるなんて。
ギリギリ
歯軋りが止まらない。
どうして私たちだけが。
止め処なく瞳から落ちる雫たち。
それは、いつも別れから起きる衝動。
私の最も嫌いなもの。
五十年前、大切な人々に別れを告げたとき。
それから五十年後、大切な人に別れを告げられなかったとき。
溢れる感情をそのままに、私は思った。
なんて救われない生き方だったのか、と。
何一つ満たされること無く、
何一つ得ることの無い生のカタチ。
恐らくそれは、私にも当てはまるのだろう。
それなのに、どうして。
どうしてこんなにも安らかな・・・。
ガコーン
大きな振動とともに、エレベーターは私たちを桃源郷へと案内した。
菊池の亡骸を抱き上げ、扉の前に立つ。扉は徐々に開き、
真一、待ってろよ。
すぐに教えてやるからな。
―――― お前が見たがっていた空の色を。
そして私は地上に降り立った。


青の記憶 完


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