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青の記憶 hopeless world
【SF その他小説】

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青の記憶 hopeless world-1

「空ってどんな色をしていたっけ?」
その殺風景な空間の中、彼は言った。視線を天に向けていた、その色は白。時の流れは、加速度的に僕らの記憶を霞ませる。
目を閉じても、もう思い出すことはできない。
空を飛ぶ鳥たちの姿。
寄せては返す波の音。
季節を運ぶ風の香り。
それは、かつて日常だったもの。
遠い、遠い昔の記憶。

二千十年、四月。一年前に予測されていた隕石の衝突は現実に起こった。それは地球を消滅させるだけのダメージを与えることはなかった。しかし隕石が大気圏突入の際、某国が史上に類を見ない巨大な核ミサイルを発射。隕石と核によって生じた巨大なオゾン層の穴は、人類の力ではどうすることも出来なかった。地上では核の冬が到来。更に無為に放射能を浴び続け、地球上の生物、自然、すべてが死に絶えていった。各政府は事前に建設した巨大地下都市に、ほんの一握りの人々を移住させていた。コンピューターによる無作為な抽選と謳っていたが、それが真実かどうかは今も怪しい。地下に閉じ込められた沢山の植物や動物、書物に食べ物。そして千人に一人の割合で生き残った人々。

「空は青かったよ、確か青かった。」
僕、田宮聡(たみやさとし)は答えた。五年の歳月を閉空間で過ごし、それにもとうに慣れた。地上での生活は、とても頼りない過去と成り果て、もはや空の色さえも断言することはできない。
「そうか、青かったか。もう一度見れるかなぁ。」
名残惜しそうに、彼、菊池真一(きくちしんいち)は上を睨む。
「見れるさ、きっと見れる。外に出たら、一緒に・・・。」
「一緒に酒を飲もう、広く青い空の下で。」
二人の声が重なる。決して果たされることの無い誓い。この地下都市に連れてこられて最初に話した他人は、今はもう、かけがえの無い友となり。
誰もが他人だった。両親と別れ、友達と別れ、恋人と別れた。それは今生の決別だった。
千人に一人の割合で選ばれた僕がいて、選ばれなかったみんながいた。
一体どちらが幸せだったのか。
ここでは生は義務であり、死は罪である。強要された生に希望など無く。ただ陽の光を浴びる日の訪れを夢見る日々。けれどそれも次第に薄れ、今はもう生かされているだけ。
ここは、日常の残滓。
思い出だけを胸に、今日も僕らは。

「なぁ、俺たちは何か悪いことをしたのかな。」
彼は静かに、そう呟いた。二十歳に移住した彼も、もう三十を越え、妻子を持つ身となった。私も、そろそろ結婚を考える歳になってきた。
あれから十年以上が過ぎ、外界を知ることの無い子供が都市に溢れるようになってきた。それは、きっと悲しいことなんだと思う。
「悪いことなんてしていないさ。ただ、運が悪かっただけだ。」
十年前。地下都市への招待の手紙を受け取ったとき、私はなんて幸運なのかと思った。生きたくても生きられない人たちがいた。まるで投げ捨てられた煙草のように、多くの人生が無視された。まだ火がついているにもかかわらず、それは道端に放置され、そして消えていった。
彼らの分まで、私たちは生きなければならない、と。
涙を落としながら叫んだ、その誓いさえも。
長く、暗い時の流れは、ゆっくりと飲み込んでしまったのだろう。
「子供と言う種は残した。もう、俺は役目を終えても良いだろう?」
何かに助けを請うような眼差しで、彼は言う。
いつの日からか、彼の目に光は無かった。
「最近、よく夢を見るんだ。外界での知り合いが、俺を招いているんだよ。『どうして俺らを置いて、のうのうと暮らしていけるんだ?』って言うのさ。親が、兄貴が、親友が、犬が、花が、滅んでいったもの全てが、俺を引きずり込むんだ。」
「何処に?」
「彼らがいる場所に、さ。」


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