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刻を越えて
【SF その他小説】

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刻を越えて-5

月がやけに明るい夜だった。
正面から歩いてくる影は完全に敵であった。それもかなりの武士(もののふ)だ。
殺気が彼の体から湧き出ていた。
「下がっていろ。一戦交えるぞ。」
声が上ずっていたかもしれない。彼女はそれを感知して素早く木の影に身を隠した。
これが彼女の良いところだ。私が少しでも危ないと感じたら、素直に従ってくれる。
無理をして生き抜ける場所ではない、それが戦場だ。

「お前が神の子か・・・・命、落としていってもらおう。」
そう言って構えをとる姿を見て、私は震えた。
私は負けるかもしれない。
対峙しただけで分かる強さ。
けれど負けるわけにはいかない。
刀を抜いて向かい合う・・・・と急に間合いを詰めてきた。恐ろしいほどの速さで。
キンッ!!
刀が交差し、火花が散る。
「どうして私をねらう?」
戦に理由など無い。佐之介にはそれが痛い程分かっていた。
護るべき者の存在が言わせた問いと言えよう。
振り返り様に相手の一撃。
それはまさに閃光。
ザンッ!!
「くうっ」
佐之介の肩を刀が襲った。皮が削がれただけだ。
「名を拝見してもよろしいかな?」
「・・・竹丸だ。」
「なるほど、鬼人・竹丸か。強いわけだ。」

“神の子”と“鬼人”
いま、街を騒がせている二つの名が対峙している。

「・・・・覚える必要はない。死んですぐに忘れるからな。」
シュン
竹丸の刀が佐之介の脇腹を捕らえるが、空を切る。
竹丸の剣は豪快にして俊敏。
「貴様、本当に鬼の子か?」
佐之介は、竹丸の剣が自分の昔のそれに似ていると感じた。
失うものの無い押しの剣。
だからこそ強く、
だからこそ儚い。
――――― 恐らくこれは、彼女に会わなかった場合の私の姿
もしそうならば是が非でも彼に勝たなければいけない。
そうでなければ私の七年が、彼女の存在が、意味を失ってしまうから。
「私には護るべき人がいる!!戦に魅せられた貴様とは違う!!」
私は叫びながら剣を振りかざす。
神の子、渾身の一太刀。
ザシュッ!
「ぐおっ」
竹丸が悲鳴を上げる。太腿の深くまで刀身が沈んだ。
「護る奴の存在で、なぜ強くなると言えるっ!!」
「私は死ねないのだっ!!」
ガギンッ
二つの刀がぶつかり、竹丸の刀は折れ、元の三分の二程の長さになった。
「これで終わりだ!鬼では神には勝てん!!」
私は勝利を確信した。
月が雲に覆われ、急に光が無くなる。
――――――― ザンッ

勝負は決した
佐之介の刀は、竹丸の喉下を切り裂いていた。
竹丸の喉から血が流れ落ちる。
竹丸は刀から手を離し、止血をする。
竹丸の離した刀は浮いている 地に落ちない。
それは佐之介の体を貫いていたから。

「お前が神だと誰が決めた?ただの人だ・・・俺も、お前も・・・」
竹丸はそう言ったに違いない。
血が滴り落ちるその喉からは正しい発音は聞き取れなかった。
地面と水平になっている佐之介の視線は、木の後ろの影をとらえていた。

――――― オンナノコガ、ナイテイル
何故?
ああ、そうか、私は負けたのか・・・。
ああ、泣かないのでおくれ・・ごめんよ・・・守れなかった・・・君を・・・・ごめん、ごめん・・よ・・約束した・のにな・・

竹丸がその木に近づいていく。
彼女が何かを叫んでいる。
竹丸が何かを言っている。

・・もう・・なにも・・きこえないんだ・・・つぎは・・・まもるから・・・ぜったい・・・・
まもるから・・・だから・・・ナカナイデオクレ

佐之介の視線が最後に捕らえたのは、竹丸の折れた刀が彼女に振り下ろされる瞬間だった。

死闘
敗れたから、私は死ぬ。
それは至極、当然のこと。
けれど許せない。
私には、護るべき人がいたのだから。
私には、守るべき約束があったのだから。
だから許せない。
だから許さない。

この対決は、これで終わりではない。
世紀を越えて二人は対峙する。
それは佐之介の最後に網膜に焼きついた記憶が、色褪せなかったからであろうか?
それとも佐之介が本当に「神の子」だったからであろうか?
しかし数百年の年月は彼らの立場を逆転させる。
佐之介は殺人の剣から活人の剣、そして川上衛として転生を果たし、再び殺人の剣へ。
竹丸は坂本悠一に転生し、奪う側から護る側へ。
運命は皮肉。

結ばれた約束は、果たされぬままに。



上山佐之介偏了


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