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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-6

「……何だかやつれてきたな」
 ティトーの言葉に、深花は苦笑した。
「やっぱりそう見えます?」
「そんなに夜の方が激しいのかと、下衆の勘繰りを働かせたくなるくらいにはな」
 言いながらティトーは、書類にサインを入れた。
 二人は今、ザッフェレルの執務室にいた。
 基地閉鎖の前にできる限り書類の山を減らして、事務局を安心させるためだ。
 深花はティトーの示したガイドラインに従い、書類を重要度・優先度で振り分ける。
 ティトーは自分の代理サインで済む書類はどんどん処理し、どうしてもザッフェレルの認可が必要な物のみ彼の机に積み上げていっていた。
 ザッフェレル自身は気分転換と昼食のために席を外しているので、部屋にいるのは二人だけである。
「あ、それはないです」
 その可能性をあっさり否定され、ティトーはペンを走らせる手を止めて彼女を見た。
「あれが我慢してるっていう事か?」
「えぇ、まあ……我慢、させちゃってます」
 ティトーは左手で頬杖をつき、眉間に皺を寄せてしばし考え込んだ。
「俺達、同じ人物について話してるんだよな?」
「はい。絶縁を解除する気になった、大公爵公子の彼です」
 再び、ティトーは考え込む。
「あれが、我慢?」
 信じられなくて、彼は呟く。
 ジュリアスは、深花の前に何人かいた女達とは割合すぐに体の関係を結んでいた。
 関係を結んだ後、この女ならばと思い切って自分の地位を打ち明けては玉砕を繰り返していたのだが……深花が相手だと、明らかに手順が違う。
「君が焦らし上手……なわけでもないか」
 そういう恋の駆け引きを使えるほど、深花が恋愛に熟達していないのは明らかだ。
 どうやら、本命には意外と慎重派だったらしい。
 それか、恋愛初心者故の鈍さで深花がそれらしいアプローチやムードを台なしにしているかのどちらかだ。
 たぶん後者だろうなと予測がつき、ティトーは苦笑した。
「まあ、あまり焦らさずに応えてやんなよ。体を知り尽くした程度で飽きるほど、安い男じゃないのは保証するから」
「いや、その……」
 真っ赤になる深花を見て、ティトーはくすくす笑う。
「あ、そ、そういえば……今年はフラウさんとお家に帰省するんですか?」
 あからさまなごまかしだったが、ティトーはあえてそれに乗った。
 いじめて楽しむには、深花はあまりに無垢だ。
「あぁ。この間、正式に返事をもらったからな」
 ティトーは再び、手を動かし始める。
「今までは生誕節の間、どこにも行く宛てのない尉官だからって自主的に残ってたけど……俺とそうなったからには、もう孤独なんて感じさせてやるもんか。息が詰まるくらい幸せにする自信はある」
 それを聞いて、深花は小さく笑った。
「フラウさんが好きだったなんて、私もジュリアスも全然気づきませんでしたよ」
 自分の相棒がフラウを好いていたという事実に狼狽するジュリアスは、ティトーにとっていい見物だった。
「自分の理想にして最高だと思える女が一番の親友を慕ってるんだからな。まぁ、二人の関係に決着がつくまで隠しておいた方が賢明だと思ったし実際そうだったし……だから深花、君には感謝してる。君が来てくれなかったら、俺はフラウをものにできなかったと思う」
 言ってティトーは、晴れやかに笑った。
 火遊びはフラウに興味がありませんとするパフォーマンスだったらしく、そうなるにあたってティトーは自分の男女関係を全て清算していた。
 門前町のいかがわしい宿屋にいる綺麗どころの娼婦や男娼を惜しむふりをしてフラウに呆れられていたのは、ちょっとした余談だが。


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