投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

異界幻想の最初へ 異界幻想 230 異界幻想 232 異界幻想の最後へ

異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-5

「あっ……う……!」
 首筋にむしゃぶりつかれ、深花はぴくぴく震える。
「俺を見ろ」
 両頬を手で挟んで正面を向かせ、ジュリアスは言った。
「言葉だけじゃ足りねえ……ちゃんと俺を見ろ」
「ジュリアス……」
 深い紅の瞳を覗き込めば、自分を見ないで逃げ回る彼女への不満がくすぶっていた。
「それとも何か?俺とこうなったのを後悔してて、もう別れたいとか言い出す気か?」
「そ、そんな事ない!」
 あたふたとそれを否定し、深花は視線を逸らしかけ……慌てて視線を戻す。
 今、自分を見てくれないと不満をぶつけてきている男から視線を外したりしたら……怒りにしろ不興にしろ、嫌な感情を買う事になる。
「……ごめん」
 ジュリアスの頬に、深花は手を添えた。
「男の人とこういう関係になったの初めてで、どうすればいいのか分かんないの。あなたが悪い所はどこにもない……私が照れて恥ずかしくて逃げ回ってるだけ」
「恥ずかしいって……何がだ?」
 素朴にして当然の疑問に、深花は苦笑する。
「綺麗すぎる顔が直視できないって言われたら、信じる?」
「……は?」
「顔で好きになったわけじゃないけど、見ると綺麗すぎて照れるし恥ずかしくなるし……こんな人と付き合い始めたって事実が照れ臭いの」
 ジュリアス相手に嘘をついても仕方ないので、正直に言う。
「綺麗って……」
 複雑そうな顔で、ジュリアスは黙り込んだ。
 自分の顔は先祖とそっくりなだけで、なにがしかの努力をしてこの顔になったわけではない。
「だからさ、色々慣れるまでもうちょっと辛抱して欲しいの。そんなに、時間はかからないと思うから……」
 勇気を出して頭を上げ、自分の唇を触れさせる。
「暗くしてくれるなら、さっきの続きも頑張るよ」
「……いらねえよ」
 ため息混じりに、ジュリアスは言う。
 同棲を強引に押し切ったのは、自分だ。
 むやみに照れて逃げ回る理由が自分の外見にあると打ち明けられてしまった以上、ここは引いてこちらの無理を通した分と相殺するべきだろう。
「逃げる理由は分かった……けどな、そういう事はもっと早くに言いやがれ」
 柔らかな肢体を、ぐっと抱きしめる。
「理由も言わずに逃げ回られたら、こっちとしちゃあいきなり嫌われたのかとか何か不満があるのかとか勘繰っちまって、けっこぉショックだったんだからな」
「あ……」
 自分にかまけてジュリアスの事を考えていなかったのに気づかされ、深花は申し訳ない気持ちで一杯になる。
 と同時に、この男が自分の態度一つでこんなにぐらぐら揺るがされているという事実に驚いた。
「ごめん……」
 抱きしめ返すと、痛くはないがかなり強い力で抱かれた。
「お家に行く時までには、頑張って直すから……」
「本気で頼むぞおい」
 父親と対峙する。
 考えるだけでストレスの溜まるそのイベントを前にして土台がこれだけぐらついているとは、由々しき事態である。
「ん……!」
 顔が近づいたついでに、唇を重ねる。
 キスならば、目を閉じるので気恥ずかしさはないらしい。
 軽く触れ合わせるだけのそれへ、深花は一生懸命応えてくれる。
 このまま唇に舌を差し込みたい衝動を堪え、ジュリアスは離れた。
「……そろそろ寝るか」
「え」
 ぎく、と深花が震える。
「眠る、の方な。今日はもう何もしねえって」
 意を決し、深花の顔を覗き込む。
 反射的に視線を逸らそうとしたが踏み止まり、深花は見つめ返してきた。
「そう、それでいい。急かしゃしねえが、あまり時間は残されてねえからな」



異界幻想の最初へ 異界幻想 230 異界幻想 232 異界幻想の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前