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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-15

「……エルヴァース君てさ」
「ん?」
「自分が後を継ぐ気、あるの?」
 あの時の会話を思い出すと、ジュリアスへ家に戻ってきてくれと懇願してはいたが自分が継ぐから家の事は心配するなくらいの気概はなかった。
「……ないだろうな」
 ややあって、ため息混じりにジュリアスは言う。
「あいつはあくまでも、俺を補佐する立場だと思ってる。俺自身も出奔前は、弟に後を継がせる気はなかったしなぁ」
 ジュリアスは、華奢な体を抱きすくめた。
 柔らかな肢体を抱いていると、安心感が込み上げる。
「俺の相棒はティトーだけど、家を継ぐ時に腹心として信頼できるのは弟だと思ってる。貴族優先主義さえ引っ込めてくれりゃ、文句はないんだが……」
 ため息をついて、ジュリアスは腕の力を緩めた。
「ま、そこはおいおい話し合う事にする。それより、頼み事があるけどいいか?」
 ジュリアスらしくないと言えばジュリアスらしくない歯切れの悪い言い回しに、深花は眉をしかめた。
「なぁに?」
 しかし、自分がここにいるのはジュリアスを支えるためだ。
 自分に何をさせたいのかと、その声に耳を傾ける。
「リュクティスをこっちに引き込みたい。たぶん社交辞令として、二三日くらいしたらお茶会に誘ってくるはずだ……誘いが来たら引き受けて、できうる限りの情報を引き出して欲しい。もちろん、こっちの腹積もりを探ってくるようなら漏らしていい範囲の事は教えてやってくれ」
 それは結構重要なポジションではなかろうか。
「それ、私で務まるの?」
 疑念を口にすると、ジュリアスは一笑に附した。
「天敵二人を懐柔できたお前だ。侯爵令嬢を手なずけるくらい、造作もねえよ」
「へ?」
「ダェル・ナタルへの潜入中な、お前っつう緩衝材がなかったら俺達は早晩分裂して殺し合って全滅が関の山だった。あの時、もしお前とはぐれた俺が二人と出会ってたら……死ぬまで戦ってたろうさ」
 ダェル・ナタルへの潜入は本当に危ない綱渡りだったのだと知らされ、深花は息を飲む。
「それが仲良く任務を達成できたのは、お前がいたからだ。デュガリアだって、お前だからこそすぐに警戒を解いたんだろうし……俺かティトーだけなら説得できたかどうかも怪しい所だな」
 正気の本物か確かめるためにキスしそうになった二人を思い出し、むらむらと嫉妬が沸き上がる。
「……あの時どうして、わざわざあんな方法をとったんだ?」
 そっと唇を撫でると、深花は質問の意図を理解したらしい。
「デュガリアさんに同行を依頼した後、二人で話し合ったでしょ?その時に私が誰を好きなのか知られちゃって……場所柄、周りには誰もいなかったからそれが私とデュガリアさんの符丁になっちゃったの」
 そこまで言ってから、深花ははたと気づく。
 リオ・ゼネルヴァで生まれ育った人間が、他人に唇を触れさせる意味。
 基本的に雑なこの男が、ある時期を境にやたらと体に触れてきた理由。
 その人間に個人的関心を持つ事を主張する、数々の行為。
「……」
「どうした?」
 急に深花が黙り込んだので、ジュリアスはその顔を覗き込む。
 体を抱いている以外は何もしていないのに深花の顔は真っ赤になって、何故かもじもじし始めた。
「??」
「……鈍くてごめん」
 そう言うと、ジュリアスの唇に自分のそれを押し当てる。
「今の今まで、全っ然気づいてなかった。単にやたらと体に触ってくるなぁくらいの認識で……嫌じゃないからそのままにしてただけなの」
 言い訳を聞いたジュリアスは、ふっと笑う。
「俺とお前じゃ、育ってきた環境が違うもんな」
 キスを返し、しばらく唇を貪る。
 しっとり柔らかく、吸い付いてくるような心地いい触感。
 甘く芳しい吐息。
 指を頬から首へと優しく滑らせれば、体の下で細い肢体が震える。
「!」
 指先が耳に触れたため、深花はぎくりと固まった。
 優しくもいやらしく、外耳の襞がなぞられていく。


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