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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-14

「ほら笑われちゃったじゃない」
「……お前を見て笑ってるんだよ」
「え、そうなの?」
 ボケの効いた応酬に、リュクティスの笑みが広がる。
 その顔を見たジュリアスの表情が、変化した。
 頭より体を使う方に長けている男には珍しい、策謀を巡らせる表情だ。
「?」
 一体何に手応えを感じたのかが分からず、深花は首をかしげる。
「親父」
 魚にフォークを入れて身を掬いながら、ジュリアスは聞く。
「明日以降の予定は空いてるんだな?」
「生誕節だからな。それがどうかしたのか?」
「ちょっとな」
 答をごまかすと、ジュリアスは食事に集中し始めたのだった……。


 食事を終えた二人が寝室に引き上げると、小間使いが暖炉に火を入れながら深花を待っていた。
 大公爵当主夫人のドレスを脱ぎっぱなしにするわけにもいかなかったので、ありがたく着替えを手伝ってもらう。
 ジュリアスを居間に追い出してドレスを脱ぎ、化粧を落として寝間着に着替えた辺りで深花はようやく緊張を解いた。
 部屋に入ってきたジュリアスは暖炉に薪を追加すると、同じく寝間着に着替える。
「まあお疲れさん」
 先に布団へ潜り込んでいた深花の隣へ体を滑り込ませると、ジュリアスはそう言ってねぎらった。
「ん」
「まさかお前が親父に呼ばれるなんてなー」
 深花の体を抱き寄せながら、ジュリアスは呟く。
「一体何を話してた?」
「ん?色々」
 いそいそと腕の中へおさまりながら、深花は答えた。
「……あなたが何歳までおねしょしてたかとか」
「おいっ!?」
 あんまりな話に声を荒げると、深花はくすくす笑った。
「冗談よ。本当はね、あなたのお母様の事」
 真面目な声で、深花は告げる。
 彼女の名前や性格、癖……覚えている事を、大公爵は率直に語ってくれた。
 若くして妻を亡くしながら、後添いを娶らなかった理由も。
「……え?」
 それは初耳だったため、ジュリアスは思わず腕に力を込める。
「あまり体が丈夫ではなかったあれがジュリアスを産んだ時、私はもう十分だと思った。しかし、二人目が欲しいと持ち掛けられ……説得しきれなかった結果、私は二人の子供と引き替えにあれを失った。私にとって、妻はあれ一人。あれ以外の女を娶る気も子を成す気もないのだよ」
 大公爵が語った内容そのままを、深花は口にする。
「……そうか」
 ジュリアスなりに納得できる話だったのか、何度もそうかと繰り返す。
「ずっと疑問ではあったんだ」
 それから、ぽつぽつ話し始めた。
「母が亡くなった時……俺達兄弟は幼いし親父はまだ二十代だし、親父の地位と俺達の養育環境の事を考えると後添いを娶る方が自然だから、喪が明けてからしばらくは周囲がかなりうるさかったんだ。けど、親父は頑として首を縦に振らなかった。夫人候補として貴族令嬢が家に送り込まれてくる事もあったけど、親父は俺達に指一本たりとも触れさせなかった。習い事を増やして、そういう女の撃退方法を教え込まれはしたけどな……」
 十人の家庭教師は、兄弟に監視を付ける意味合いもあったらしい。
 全ては、亡妻の忘れ形見を守るため。
 息子達はどちらもすくすくと成長し、立派に成人した。
 少し早くはあるが勇退の道を選んでもおかしくない年齢に差し掛かり、大公爵はそろそろどちらを後継者にするかを選ぶ時期にきている。


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